第43話

文字数 1,046文字

 慌ててスマホを覗きこむと、メッセージを送ってきたのは陸だった。

「なーんだ……」

 ガッカリした気持ちが声になってでてしまう。遊さんは今仕事中。メッセージをくれたりしないってわかっていたはずだけど、ため息が溢れてしまう。

『今どこ? いつもの改札のところで待ってる 』

 部活を引退した陸も、最近同じK駅にある塾に通いだした。母親同士仲がいいから、うちのお母さんが陸のお母さんに、時間があうときは帰りは一緒に帰るよう頼んだらしい。
陸は律儀だから、いつもこうやって塾が終わった後メッセージをくれる。

 それはいいとしても、問題はLampoに行きにくくなってしまったこと。陸にLampoに寄るから先に帰って、とメッセージを送ったら、まるで保護者みたいに、アプリ上でガンガン説教された。親より陸のほうがうるさい。だから塾のまえ、Lampoに寄ってみた。そんな時間に、行くのは気恥しかったけれど、それ以上に遊さんに会いたかったから。

『もうすぐつくよ』

 パパっと画面をタップしてそう入力すると、あっという間に既読がついた。駅の階段を上って改札のほうへ歩いていたら、先に私を見つけて、フワッと笑う陸の笑顔が見えた。ちょっと口うるさいけれど、陸の笑顔をみると、ホッとするのは昔も今も変わらない。

竜ちゃんのことを同級生からかわれて喧嘩したあとや、落ち込んだ時、この笑顔に何度救われただろう。大きくなってもそれは変わらなくて。私も自然、笑顔になる。

「ごめん。待った?」

「全然。行こ」

 まるでつきあっているカップルみたいなやり取りだなあと苦笑しながら、陸の後ろをついていく。改札先にある階段を降りきって、プラットフォームを歩いていると陸が振り返った。

「なんで後ろを歩いてるの?」

「え? なんとなく?」

 陸だから気をつかって話をしたりしなくてもいいし、遊さんの事をひとり、考えていたかったせいもある。適当な返事をした私をみて、陸がスッとクールに目を細めた。それはいきなりだった。腕が伸びてきて、ギュッと手首を掴まれてしまった。

「ちゃんと、隣りに来て」

 あまり聞いたことがない、低い声。陸は想像もしていなかった、強い力で私を隣に引き寄せた。しかもしっかり手首を握ったまま、プラットフォームを歩きだす。

「り、陸、ちょっと痛いよ! これじゃ、手を繋いで歩いてるみたいだし……」

 引きずられた状態でそういうと、陸は前を見たまま、ほんの少しだけ握る力を緩めた。
それから不敵にすら見える笑みを浮かべてみせたから、どきりとする。

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