第73話

文字数 882文字

 周りの視線を気にしながら、ボソボソ呟く。

「ど、どうって……?」

「第1志望の判定どうだった?」

「……悪くていいたくない。そっちは?」

「俺、B判定」

 淡々とそういう陸を思わず見た。同じ医大が第1志望と聞いて、びっくりしたのが先日。この模試は判定が厳しくて、かなり成績がよくないとB判定は出ない。部活を引退したとはいえ、まさかそこまで成績をあげていたなんて。持ち前の負けん気が湧きあがってくる。

「私より全然いいよ、それ」

 口をへの字にしてそう言いと、陸が表情をくしゃりと崩してぶっとふき出した。

「ようやくいつもの調子がでてきた。悔しかったら、俺ごときに負けるなよ」

「なにその可愛くない言い方! わかってるよ。もう負けない。次は勝つ」 

 ゲンコツを握り締めてそういうと、陸は見慣れた柔らかな笑みを浮かべて、それでこそ真琴、といって笑った。その笑顔を見ていたら、この前駅で言われたコトバを思い出してしまう。

『絶対俺の方が真琴のこと、好きだよ。あいつより全然』

 そんなことを言ったのがウソみたいに、普通に接してくる。普通と言っても以前のようふわふわした感じはまるでなくて。勉強でも一気にスパートをかけてくるパワーも、背筋が伸びた硬質な雰囲気も。陸はもう小さな男の子じゃない、男の人なのだと実感してしまう。

 ぼんやりそんな事を考えていたら、陸がニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「じゃあ次の模試で賭けをしようよ。勝ったほうのいう事をなんでも聞くってどう?」

 昔からそう言う勝負を挑まれると、つい受けてたってしまうのを、陸は多分よくわかっている。

「ふーん、いいよ。じゃあ、私が勝ったらアテスリーのケーキ、3つ買ってもらう」

 駅から徒歩20分、1つ軽く600円以上する高級ケーキ屋さんの名前をすぐに挙げる。 陸は楽しげにうなづいた。

「OK。わかった」

「陸は?」

 私をじいっと見たあと、ふわりと笑った。

「勝った時に言う。俺、死ぬ気で勉強するから。覚悟して」
 
 挑まれているはずなのに。柔らかな瞳でそう言われると、なんだか変。心を揺らすような声の響きに聞こえて、どきりとしてしまう。
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