第36話

文字数 838文字

「良かった。だってその、……彼女とのデートを邪魔されて、イラッとしたのかな、とか」

「え? 彼女?」

「あの、ショートヘアの美人の彼女……」

 そう言われてようやく合点がいく。

「雫? 彼女じゃないよ」 

 俺の言葉にぱあっと笑顔を浮かべたあと、またハタと思案顔になる真琴を見つめる。表情がくるくる変わる様子を見ているのは面白い。

「そうなんだ。……でも午前中から一緒にいるって、仲いいよね」

 真っ直ぐ瞳をこちらにむけて、そんなコトを言ってくる真琴は、拗ねているようにもみえる。以前つきあっていたコにも、似たようなことを言われたのを思い出す。その時は鬱陶しい気分になったのに、真琴から言われると、からかいたくなってくる。

「まあ、仲は悪くないけど。気になる?」

「……べ、別に!」

「真琴だって、男友達くらいいるだろ。会った時、隣にいたやつ、みたいな」

 言ってから、なんだかあの(ガキ)を気にしているみたいな言い方だな、と少し後悔したけれど、もう遅い。真琴は俺の言葉を聞いて、嬉しそうに笑った。

「もしかして彼氏とか思った?」

「さあ。どうだったかな。友達なんだろ?」

 俺がさらっと流すと、真琴は、不服そうな顔をした。

「ソコは彼氏かと思ったとかなんとか言ってくれてもいいのに……」

 なんてぶつぶつ言うからつい、笑ってしまう。

「真琴、わかりやすいからね」

 そう言うと少し瞳を見開いたあと、ほわりと嬉しそうに笑った。

「そんなこと言ってくれるの、遊さんと陸くらいかな。あ、陸ってこないだ一緒にいたコ。学校のみんなは私のこと、無表情で勉強ばっかりしてる暗っぽい女だと思ってるよ」

「ふーん」

 あの陸って奴は、真琴のことをよく理解しているらしい。軽く視線を泳がせると、真琴がちらりとこちらを見て早口で言う。

「あ、陸はただの幼馴染。幼稚園からずっと一緒で、今は学校のクラスも一緒なの」

 ただの幼馴染。そう思っているのは真琴だけで、妙に可愛い顔をした幼馴染は、そう思っていないのは明らかだった。口元に苦笑が浮かぶ。

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