第127話

文字数 377文字

 もし彼の本当の笑顔が見れたのなら。この息苦しい世界(small world)から、抜け出せる。

 私は賭けに勝ったのかもしれない。だってこんなふうにわらってくれる遊さんといたら、遠く未来まで広がる知らない世界を一緒に見たいと思ってしまうから。冒険に出かけるまえの勇者みたいに、わくわくしてしまうから。そのことを彼に伝えようとしたけれど、私の声は音にはならなかった。

 遊さんの唇がわたしの唇をそっとふさいだせい。呼吸を交換するように、キスはすこしづつ深くなって。わたしの言葉は遊さんのなかに吸い込まれてしまった。激しい鼓動。心臓が爆発しそう。でも私はこうしてくれることをずっとずっと待っていた。遊さんの腕を強く掴む。

 知らなかった世界がまた広がっていく。気持ちがどこまでも高揚していく。

 でも次第に何も考えられなくなって。熱くて痺れるような甘い感覚のなかに、私の意識は溶けていった。

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