第14話

文字数 800文字

 全裸で長時間静止しポージングするモデルは、想像するよりはるかに重労働だ。しかも変な目で見る野郎もいるっちゃ、いる。だから大抵のヌードモデルは無表情で視線も合わさず、見えない壁を俺たちとの間に作り、淡々としている。

 雫は違った。モデル待ちをしていた教室。皆の視線を一身に浴びながら入って来た雫は、リングにあがる前のプロレスラーのように、着ていたガウンを豪快に投げ捨てた。ひらひら舞うガウンに、皆が度肝を抜かれているのも構わず、まわりをぐるりと見渡して、いたずらっ子のようにニヤリ笑っていった。

『キレイに描いてくれなきゃ破るよ?』

 今なら雫らしいパフォーマンスだと苦笑するけれど、その時はこの女マジでヤバイと身構えてしまった。細身だけど、他のモデルと比べてもかなりいいプロポーション。だけどあまりに堂々としていて、皆毒気を抜かれて、色気なんか微塵も感じなくなってしまった。

 更にはモデルをしている間も、挙動がおかしい。時々口元が、楽しげにカーブを描きそうになるたびに歪み、笑うのを我慢している。さすがに身動きはしないものの、目玉もキョロキョロ動いて何だか落ち着かない。
 
 しばらくすると、その視線が俺に貼りついた。無視してもじっとこちらを見てくる。周りの奴らが、俺と雫をみて含み笑いをするくらい、それはあからさまだった。その当時、俺は所謂"陰キャ"に徹していて、前髪で顔を隠し、気配も消すようにしていた。

 できるだけ目立ちたくなかったし、人とも関わりたくなかったから、モデルにジロジロ見られるなんて、はっきり言って迷惑以外の何物でもない。無視しまくっていたけれど、休憩時間、俺が席を外す暇も与えず、ガウンを半分羽織ったような格好で目の前に立たれてしまった。パーソナルエリアなど全く気にしない近距離に、俺はのけぞった。

『ねーキミ、私よりよっぽどキレイな顔してるのに、どうして隠しているの? 勿体無いなあ』
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