第78話

文字数 797文字

 学校の最寄り駅近くにある居酒屋。その座敷隅の壁に寄りかかって、乾杯のあと、ワイワイ酒を飲み交わすクラスメイトをぼんやり眺めた。

 このクラスになって2年目だというのに、飲み会は初参加だ。面倒くさくて、今までの誘いはすべてバイトを理由に断っていた。みんなバイトを休んで来てるんだからいい加減に来いよ。幹事の佐藤にそうやって強引に参加を約束させられ、今回は仕方なく貴大さんに頼んで、休みを貰って来たのだ。ただし。親交を深めるって言われても、このやかましいノリはやっぱり好きになれない。

 しかも酔っ払いの相手は、バイト(Lampo)で散々やっている。金を出して、その相手をしなきゃいけないのか。ため息と一緒に湧き上がってきた苦笑を噛み殺す。

 烏龍茶を飲みながら、大皿の上であまり箸をつけられていない唐揚げに、1人手を伸ばし、もりもり食べていると、隣の席にいた女の子が、不意に話しかけてきた。

「佐川くんて……ミステリアスだよね」

 思わず口の中にあった唐揚げを吹きそうになるのを耐えたら、むせてしまった。

「大丈夫?」

 烏龍茶を飲んではあ、と息を吐く。隣の女の子にちらりと視線を投げると、彼女は丸メガネの奥にある細い瞳をさらに細めて、楽しそうに俺を見ている。

「変なこと、いきなり言わないでよ。びっくりするから」

 紙ナプキンで、口を拭きながらそういうと、彼女はくすくす笑った。名前が思い出せない。緩いつながりのクラスとはいえ、もう2年目。それなのに、特に女子の名前はほとんど覚えていない。この馴染んでいなさ加減は酷い。

「だって。佐川くんてあんまり誰かと話をしているところ見ないし、授業終わったらさっさと帰るでしょ。それでいて、あの美人のヌードモデルさんとはすごく仲良さそうだし」

「あー! それ、私も思ってた!」

 いつの間にか女の子3人に囲まれた状態になっていて、彼女らの勢いから逃げるように、壁のほうに身体を寄せる。
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