第45話

文字数 942文字

 成長してからの私たちの関係を思い起こしてみる。中学に入ったあと、友達がどんどん減っていた私に、さりげなく声をかけてくれていたこと。同じ高校に入って、クラスが違うときも、会えば話しかけてきたし、クラスが同じ今は、適度な距離を保ちつつ、いつも気遣ってくれていたこと。

「まずさ、真琴の学力に追いついて追い越さなきゃって、勉強もすげえ、頑張ったし。部活しながら、真琴と同じくらいの学力キープすんの、かなり大変だった」

 照れたようにそういう陸をみつめる。確かに昔に比べたら格段に勉強もできるようになっていた。サバサバそういう様子は、昔の可愛かった陸じゃない。年相応の男の子、だ。

「すげえ……とか言うんだ」

 普段から友達とはそんな風に話していたのかもしれない。でも私は、まわりに壁を作って自分の世界に閉じこもっていたから、気づかなかった。胸にほんの少しだけ、孤独が差し込む。私だけが、ちっとも変わらず同じ場所にいる。

 なんだろう。陸なのに、陸じゃない男の子と話しているようなこの感覚。昔から大事にしていたものがなくなってしまった。そんな一抹の寂しさが、胸をギュッと締め付けた。
じっと私をみていた陸が、ふわりと笑った。その笑顔だけは昔と変わらない。

「中学で部活はいったら、まわり男だらけだし、言葉なんてすぐこうなった。……でもさ、真琴と話すときは、気をつけてた。それでなくても、あまり他のひとと話さなくなってたのに、俺まで変わったら、不安になるかもしれないって思ったから」

 びっくりして陸の顔を見つめる。もう5年以上も、私には丁寧に話をしてくれていたのだ。

「……そうだったんだ」

「真琴の性格知ってるから。環境の変化とか苦手だろ? すぐ不安になる。見せないようにしてるけど、俺にはわかるし」

 包み込むように見つめられて。色々な感情がわきあがってくる。こんな気持ちを呼び起こした陸に、八つ当たりしたいような、頼りたくなるような。自分でもどうしていいか、わからなくなる。ふと浮かび上がってきた疑問。混乱したまま口にする。

「どうして?」

「ん?」

「どうして昔からの陸を、いきなりやめちゃったの?」

 陸はしばらく考えるように、私の肩あたりに視線を落としていたけれど、思い切ったように顔をあげて、こちらをみた。

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