第79話

文字数 946文字

「それはあいつがいきなり……」

「あいつ?! あの人と つきあってるの?」

 3人が同時にぐいっと顔を寄せてきたから、慌てて手を振った。

「いや、つきあってないから」

「でも俺、知り合いから聞いたぜ」

 さらにそこに、幹事の佐藤までニヤニヤ笑いながら乱入してきたから、嫌な予感がして軽く睨んで威嚇する。

「彼女と中庭でキスしてたんだって?」

 女の子3人が声を揃えて、ええっ! とでかい声で叫んだから、目眩がしてきた。

「……佐藤、お前適当なことを言うなよ」

「いや、ガセじゃない。佐川に邪魔するなって感じで睨まれたって。俺も真相が聞きたくて」

 そこまで言われてようやく思い当たった。雫に唇を噛まれたところを見られたのだ。

「……あれは事故だから」

「事故?!」

 今度は4人して妙なハーモニーで声を揃えたから、笑いそうになったけれど、なんとか堪えた。

「あのさ、俺のハナシなんかつまんないからいいよ。別のハナシにして」

「ダメダメ、この機会を逃したらもう聞けない! その、事故に至る経緯が聞きたい」

 丸メガネの子が真剣な顔をして、雑誌の記者みたいに食いついてくる。

「いや、ホントになんもない。ちょっとしたことだから。それだけ」

 そういってこの話を終わらせようと唐揚げを口に放り込むと、女子3人組は納得いかないなあ、と口を尖らせた。

「でもさ。最近佐川の表情が柔らかくなったからさあ、彼女でも出来たんだと思ったんだよな」

 佐藤にしみじみそう言われ、奴の顔をちらりと見ると、なんだか親戚のオヤジみたいな顔をして、頷く。

「あ、わかる! 1年のときなんか、めちゃくちゃクールでとんがってて、話しかけたら、視線だけでばっさり切られそうだったもんね。こんなふうに気軽に話せない感じだった」

 丸メガネのコメントに、前髪パッツン少女とくりくり茶髪女子もうんうん、と同意している。一応客商売のバイトをしているのに、そこまで言われるのはなんだか不本意だ。慌てて唐揚げを飲み込んで口を開く。

「ちょっと待って。俺、そこまで人相悪かった?」

 女の子たちは3人して、顔を見合わせ、うんとあっさり頷くから言葉に詰まる。

「人相って言うか、雰囲気かな?」

 前髪パッツンがまわりに同意を求めると、またみんなしてそれ! そうそう! と頷きあう。

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