第74話

文字数 713文字

 授業開始のチャイムが鳴る。人のことを軽く混乱させたくせに、陸は涼しい顔をして、じゃよろしく、なんてあっさり言って席に戻ってしまった。どこか緩んでしまっている私の負けず嫌いに火をつけようとしてくれている。それはこれまでもあったけれど。

 学校の外じゃなくて、教室でそれをするのは、今までなくて。陸の意思表示のような気がして、小さく吐息をつく。

「ねえねえ」

 背後からいきなり話しかけられてギクリとした。ゆっくり振り向く。クラスでもかなり派手で目立つ笠原さんが、サラサラな栗色の髪の毛を揺らして話し掛けてきた。ちなみに彼女が、授業以外で私に声を掛けてきたのはこれが初めてだ。

「山本さんて、陸と仲良しなんだ」

 大きな瞳で、私の顔を興味津々という感じでみつめてくる。陸はクラスでも人気があるから、地味な存在である私との会話はやっぱり注目を集めてしまう。

「幼稚園から一緒だから」

 笠原さんの絡みつくような視線を振りきってそう言ってみたけれど、彼女は構わず話を続ける。

「いままで全然そんな素振りみせなかったよね?」

 学校以外では話くらいはしていたけれど、とはさすがの私も馬鹿正直には言わない。

「……特に話すことなかったから。今は勉強の事とか情報交換したりするし」

 さらっとそう言うと、笠原さんは小さく頷いた。

「ふうん、そうなんだ。2人ともアタマいいもんね」

 ビューラーとマスカラでしっかり上を向かせたまつげをパチパチさせて、気のないふうにそうつぶやいたあと、顔を近づけてきて囁いた。

「陸って自分からは女の子の名前、絶対呼び捨てにしないんだよね。男子は呼んでるけど」

「……そうなんだ」

 その勢いに押されて曖昧に呟くと、笠原さんは唇を尖らせる。

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