第109話

文字数 714文字

 昔からいつも隣にいて。小さな手で、私を守ってくれようとしていた優しい男の子。今はちょっと意地悪なときもあるけれど、優しいのは変わらない。そう思ったらなんだか涙腺がじわっと熱くなってきてしまう。

「真琴? どうした? 具合でも悪い?」

「……なんでもない」

 そう言った瞬間、本当に涙が出てきそうになって慌てて堪えた。遊さんのことばかり考えていて、結局結論も出なくて。堂々めぐりに疲れてしまっていたから、陸の優しさが沁みてしまったのかもしれない。私の顔を覗き込んで、心配そうに眉を寄せた。

「ホントに? 大丈夫?」

 大きな瞳で、内面まで見通すように見つめてくる陸に、首をふる。

「大丈夫。いつも……心配してくれてありがとう」

 まっすぐ彼を見て笑顔で言うと、普段あまり動じない陸が、ひどくびっくりしたように瞳を見開いた。それから。さあっと耳たぶと頬をすこしだけ紅くしたから、見ている私までびっくりした。

「陸……照れてる?」

 陸はすっと私から視線を逸らした。

「……素直な真琴なんか、珍しいからだよ」

 ぼそりとそんなことを呟いて、まわりをちらりと見た。

「俺たち、うるさくて迷惑かも。そろそろ出よ?」

 照れたのを誤魔化すように、ぶっきらぼうにそう言って、リュックに荷物をしまいだした。そんな陸につい笑ってしまう。

 少し不機嫌そうに、でも体育会系男子らしい早業で、あっと言う間に仕度を整える。待って、と声をかけようとする前に、陸が口を開いた。

「慌てなくていいよ。待ってるから」

「……うん」

 私が荷物をすべて入れ終えたのを確認してから、立ち上がる。こういうところ。見ていないようで、ちゃんとこちらを見て、行動してくれるところもやっぱり昔と変わらない。
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