第97話

文字数 900文字

 何かがおかしい。今日何度目かのため息をつく。

 真琴が返信を寄越さないのは、最初のときだけだった。あれ以降、かならずその日のうちに返信がきていたし、そもそも俺がストップをかけないと、延々とやり取りは続く勢いだった。
 
 けれど今。俺のスマホに、真琴からメッセージが届く気配はない。既読はついているのに。電話も繋がらない。そんな状態がもう3日だ。いくら受験生で勉強が忙しいからといって、この状態はちょっと不安になってくる。ひとこと返信するくらい、たいした時間はとらないはずなのに。

 なにか事情があるのだろうか。具合が悪いとか? それとも俺を避けている?

 考えだすと、止まらなくなってくる。小さなため息と一緒にスマホをエプロンのポケットにしまいこむと、貴大さんがくすりと笑った。

「スマホをみては、ため息とか。遊でもするんだな」

 思わず睨むくらいの勢いで、カウンターの外にいた貴大さんに視線を投げかけると、おお怖っといって両手をあげた。この人は、真琴と血縁者。俺よりよっぽど真琴のことに詳しい。貴大さんに真琴のことを聞くのは最終手段だと思っていたけれど、そろそろ限界になってきた。

 外は昼からずっとひどい雨が降っているせいか、今日は客も来ない。早い時間に来ていた客も電車が止まったらいやだ、なんていいながら早々に帰ってしまった。

 そんなオーナーとしてはあまり喜ばしくはない状況のなか、貴大さんは、スツールによいしょ、なんてノンキいって腰をおろすから、つい笑ってしまった。

「そのよいしょ、オバサンみたいだから、やめたほうがいいって前もいったじゃないですか」

「お客がいないと、カッコつけるの、忘れちゃうんだよな」

 そういって照れたように笑う。端正な顔立ちをしていて黙っていたら近づきにくいかもしれない。けれど、どこか抜けたところ、というか緩い隙がほどよくあって、一緒にいて疲れない人だ、といつも思う。貴大さんはカウンターに頬杖をついて、閑散としている店内を見つめた。

「客もいないし、こんな日は早く店を閉めちゃおうか」

 苦笑するその横顔に、おもいきって問いかけた。

「貴大さん」

「ん?」

「真琴に、なにかありました?」
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