第27話
文字数 672文字
「雫、もう行くぞ」
遊さんの低い声が、私と雫さんの会話を裂くように唐突に響いた。彼はくるりと方向をかえると、背中を向けてさっと歩き出してしまう。もう行っちゃう。そう思ったら雫さんの存在すら一瞬、頭から飛んだ。
「あ、あの、遊さん!」
慌てて声を掛けてしまっていた。遊さんがゆっくり振り返る。
「何?」
ひんやりとした口調。お店で感じる、客とスタッフという距離以上に素っ気なく響いて、たじろいでしまう。そもそも引き止めてみたものの、何を言うかなんて全く考えていなかった。
言葉に詰まって、おそるおそる顔をあげる。前髪の間から私を見つめる遊さんと目があった。その瞬間、はっとする。その口調からは想像もできない、熱を帯びた瞳。
強く深く、身体の内側まではいりこんでくるその視線は、私の心を鷲掴みにしてしまう。息ががうまく吸えなくなって、こくりと喉を鳴らしてしまった。
「……何もないなら行くよ」
遊さんはすいと、視線を逸らした。思い返したら幻に思える、夜空で見つけた一筋の彗星みたいに。その瞳は尾をひいて、私の視界から消えた。
「ちょっと遊、待ってよ! 感じ悪いなあ。真琴、陸、ごめん。またね!」
雫さんは、私たちを仲のよい友達みたいに呼び捨てにして、にこにこしながら手をふる。それから歩きだした遊さんを追いかけて行ってしまった。ふたりが見えなくなっても、しばらくその残像を見つめるように、ぼぉっとしてしまう。
「ねえ、真琴」
どれくらい時間がたったのだろう。放心してなにも言えずにいた私の隣で、ひとつ息を吐いたあと、陸が静かな口調でたずねてきた。
遊さんの低い声が、私と雫さんの会話を裂くように唐突に響いた。彼はくるりと方向をかえると、背中を向けてさっと歩き出してしまう。もう行っちゃう。そう思ったら雫さんの存在すら一瞬、頭から飛んだ。
「あ、あの、遊さん!」
慌てて声を掛けてしまっていた。遊さんがゆっくり振り返る。
「何?」
ひんやりとした口調。お店で感じる、客とスタッフという距離以上に素っ気なく響いて、たじろいでしまう。そもそも引き止めてみたものの、何を言うかなんて全く考えていなかった。
言葉に詰まって、おそるおそる顔をあげる。前髪の間から私を見つめる遊さんと目があった。その瞬間、はっとする。その口調からは想像もできない、熱を帯びた瞳。
強く深く、身体の内側まではいりこんでくるその視線は、私の心を鷲掴みにしてしまう。息ががうまく吸えなくなって、こくりと喉を鳴らしてしまった。
「……何もないなら行くよ」
遊さんはすいと、視線を逸らした。思い返したら幻に思える、夜空で見つけた一筋の彗星みたいに。その瞳は尾をひいて、私の視界から消えた。
「ちょっと遊、待ってよ! 感じ悪いなあ。真琴、陸、ごめん。またね!」
雫さんは、私たちを仲のよい友達みたいに呼び捨てにして、にこにこしながら手をふる。それから歩きだした遊さんを追いかけて行ってしまった。ふたりが見えなくなっても、しばらくその残像を見つめるように、ぼぉっとしてしまう。
「ねえ、真琴」
どれくらい時間がたったのだろう。放心してなにも言えずにいた私の隣で、ひとつ息を吐いたあと、陸が静かな口調でたずねてきた。