第23話

文字数 844文字

 丁度その時、バスがK駅前のロータリーに滑り込んで止まった。やっぱり雑な止まり方だったけれど、陸が私の腕をしっかり掴んでいたから、ビクともしなかった。

 終点、K駅ですー。お忘れものないようお降りください

 ガサツいた声のアナウンスが車内に響いたあと、乗客が出口へと動き出す。腕から、掴まれている感触がなくなった。

「あ、着いた。降りるよ真琴」

 天使の笑顔でにこりと微笑まれたから。それ以上聞くこともできずに、ただ頷くことしかできなかった。本屋さんまでの道のりでも、陸はいつもどおりごく普通だった。

やっぱり穏やかに笑いクラスメートや授業の話をしている。さっき感じた不安な空気は微塵も感じなかった。あれは私の勘違いだったのかもしれない。小さく吐息をついて、駅ビルのエスカレーターに乗る。本屋のフロアは2階だ。参考書コーナーは私たちと同じくらいの高校生から大人までいて、結構にぎわっていた。狭い通路を抜けて高校生用と書かれた本棚までくる。

「うーんと、どの辺にあるのかな」

 陸が小さく呟いて、棚を上から下までチェックする。数学やら英語の参考書はすぐに目にはいったけれど、化学になるとなかなか見当たらない。しかも種類が少なかった。

「ネットで買うほうが早いよね?」

 からかうように笑いながら私をみるから、小さな頃からの陸に対する条件反射で、頬を膨らませてしまう。

「今日にでも、すぐやりたかったんだもん。ここなら在庫がありそうだと思ったのに」

「ホント、昔から、そういうせっかちなところは全然変わらないよね」

「陸は……昔はのんびりしすぎな位ぼおっとしていたのに。最近はそうでもないね」

 スポーツはもちろん、成績も昔に比べたらずいぶん良くなった。そもそも私と同じ高校に、澄ました顔で合格していた時もびっくりしたけれど。陸は肩からずれていた学校のバックをもう一度かけなおすと、小さく笑った。

「……のんびりしていたら……追いつけないし……」

「え? 何に?」

「秘密」

 また天使の笑みではぐらかされてしまった。


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