第21話

文字数 944文字

 学校の前にあるバス停で、K駅行きのバスを待つ間、陸とふたりでいると、同じ制服を着た生徒がちらちらと見てくる。こういう視線も面倒くさい。つきあっているとか、いないとか。そんなことを探るように見られるのが鬱陶しい。だから陸と一緒にいても気楽だけど、並んで帰るのは少し億劫。

 目の前を行きかう車を見つめながら、遊さんのことを思い出す。遊さんといると、ドキドキが止まらない。一生懸命話題を見つけて話をしていても、遊さんは面白いのかなって思うと緊張して話題が出てこなくなってしまうし、黙っていればいたで、私といっしょにいてもつまらないのかもしれないと落ち込む。

 まるでジェットコースターに乗っているような気分。

「最近ぜんぜん真琴んちに行かなくなったよなあ」

 バスに乗ったあと、つり革につかまってそんなことを考えていると、陸が急にそういうからびっくりした。慌てて唇にひとさし指をつけて、しぃーと言う。

「大きな声で言わないで。誤解されたらイヤじゃん」

「誤解って、何を誤解するの?」

 大きな瞳をさらにクリクリさせて私を見たから、声を潜めて囁いた。

「だから。つきあっているとか思われたら、陸だって面倒でしょ?」

 私をまじまじと見たあと、陸が吹き出した。

「真琴は自意識過剰」

 きっぱりそう言ってまた笑う。かわいい顔をして、ソフトな空気を纏っているけれど、実はモノははっきりいう奴なのだ。しかも正論を天使の笑顔で言い切ったりするから、タチが悪い。悔しいけど、言い返せないことがよくある。私はため息をついた。

「とにかく声、もう少し小さくしてよ」

「はいはい」

 くすくす笑った後、ようやく声のトーンを抑えてくれた。

「竜司くんも元気?」

「……元気だよ」

 それだけ素っ気なく言うと、数秒沈黙があった。

「真琴は?」

「え?」

 びっくりして横を見ると、陸がじぃっと私をみていた。

「真琴はどうなの? 元気?」

 まっすぐに見つめてくる大きな瞳に、少し戸惑う。

「元気って……。元気だから学校に来てるんだよ?」

「その元気じゃなくてさ……」

 私の答えに不満そうに陸が苦笑したその時だった。バスが強くブレーキを踏んだから、ゆるく握っていたつり革がつるりと私の手から離れ、慣性の法則を体現するように、そのまま前に飛んでいきそうになった。
 

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