第25話
文字数 944文字
振り向くと、エスカレーターを上がってきた遊さんとぱちんと目が合った。遊さんが私をみてそっと口元を緩めたような気がしたから。私たちの間にある空気や時間まで止まってしまった気がした。
「遊、さん?」
声が少し震えてしまう。遊さんに会えた喜びがふくれあがりかけた、その時だった。隣にいる綺麗な女の人が視界にはいったのは。
最初の印象は、生まれたての仔鹿。吸い込まれそうなくらい黒くて大きな瞳は、好奇心旺盛で人懐っこく、キラキラと光っている。
色がギリギリまで抜けた栗色のショートカットは、少年みたいな爽やかさと女らしい色っぽさをムリなく同居させていて、彼女に凄く似合っていた。
たっぷりしたダウンジャケットを羽織っている下から伸びたジーンズの脚は長く細くて、スタイルがめちゃくちゃいいのがよくわかる。遊さんに会えた喜びと同じかそれ以上に感じてしまった、潰れてしまいそうなほど強い胸の痛み。気後れしてしまう気持ち。思わず後ずさってしまったその時だった。その仔鹿みたいな女の人が、ぴょん、と私の前に飛び出してきた。
「ねえ、すごくかわいい高校生カップル! 遊、なんでこんなカワイイコたちと知り合いなの?」
彼女が無邪気にそういう。遊さんは私と陸に、温度を感じさせない冷たい瞳をちらりと向けたあと、小さく吐息をついた。
「こっちのコ、貴大さんの姪っ子だから」
「え、えーー!」
小鹿の彼女は、まわりの人が全員振り向くくらいの大きな声で叫んだから、遊さんが慌ててたしなめた。
「声でけえよ、雫」
「あ、ごめんごめん」
そんな二人のやり取りを聞くだけでも、関係の近さを感じさせて、余計私を息苦しくする。けれど彼女はそんな事などお構いなく、さらに一歩、近づいてきた。びっくりするような近距離で、あの大きな瞳にがっちり視線を捕獲されてしまう。
「ホントだ。貴大さんと似た瞳 をしてる。透明で嘘がつけない感じが似てる」
そういってにこりと微笑んだ。その笑みこそ、とても綺麗で邪な感情なんて微塵も感じさせなくて。それが余計、彼女にとって私など何かを揺るがす存在でもなんでもない。そう見せつけられている気もしてしまう。それが悔しくて切なくて苦しい。けれどそんな自分を悟られたくないから、必死で彼女の瞳を見つめ返してたずねた。
「遊、さん?」
声が少し震えてしまう。遊さんに会えた喜びがふくれあがりかけた、その時だった。隣にいる綺麗な女の人が視界にはいったのは。
最初の印象は、生まれたての仔鹿。吸い込まれそうなくらい黒くて大きな瞳は、好奇心旺盛で人懐っこく、キラキラと光っている。
色がギリギリまで抜けた栗色のショートカットは、少年みたいな爽やかさと女らしい色っぽさをムリなく同居させていて、彼女に凄く似合っていた。
たっぷりしたダウンジャケットを羽織っている下から伸びたジーンズの脚は長く細くて、スタイルがめちゃくちゃいいのがよくわかる。遊さんに会えた喜びと同じかそれ以上に感じてしまった、潰れてしまいそうなほど強い胸の痛み。気後れしてしまう気持ち。思わず後ずさってしまったその時だった。その仔鹿みたいな女の人が、ぴょん、と私の前に飛び出してきた。
「ねえ、すごくかわいい高校生カップル! 遊、なんでこんなカワイイコたちと知り合いなの?」
彼女が無邪気にそういう。遊さんは私と陸に、温度を感じさせない冷たい瞳をちらりと向けたあと、小さく吐息をついた。
「こっちのコ、貴大さんの姪っ子だから」
「え、えーー!」
小鹿の彼女は、まわりの人が全員振り向くくらいの大きな声で叫んだから、遊さんが慌ててたしなめた。
「声でけえよ、雫」
「あ、ごめんごめん」
そんな二人のやり取りを聞くだけでも、関係の近さを感じさせて、余計私を息苦しくする。けれど彼女はそんな事などお構いなく、さらに一歩、近づいてきた。びっくりするような近距離で、あの大きな瞳にがっちり視線を捕獲されてしまう。
「ホントだ。貴大さんと似た
そういってにこりと微笑んだ。その笑みこそ、とても綺麗で邪な感情なんて微塵も感じさせなくて。それが余計、彼女にとって私など何かを揺るがす存在でもなんでもない。そう見せつけられている気もしてしまう。それが悔しくて切なくて苦しい。けれどそんな自分を悟られたくないから、必死で彼女の瞳を見つめ返してたずねた。