第66話

文字数 713文字

 いつの間にかそこ立っていたのは、わすれもしない真琴の幼なじみだった。美少年顔のくせに、クールに睨んでくるこの感じ。忘れたくてもなかなか忘れられない。

 制服は着ていないけれど、背中にリュックを背負っているから、これから塾にいくのだろう。明らかに未成年、かつLampoにくる人間に見えないからか、他の客がチラリと視線を投げかけている。完全にアウェー。けれどヤツは全く臆する様子もなく、眉間にシワを寄せて俺たちをじっと見ている。見た目に反して、結構肝が据わっている。俺もじっと軽く睨むくらいの勢いで見つめ返す。

「ああ! キミ確か真琴と一緒にいた、えーと、名前は……リク!」

 重い空気もお構いなく、素足でスキップするような気軽さで、固まった空気を蹴散らしたのは、雫だった。条件反射なのかもしれないけれど、こういう時には一家に一台雫だ。つい口元が緩む。リクもニコニコしている雫に、気圧されたのか、少しだけ表情を和らげどうも、と挨拶した。

「ほら、リクもどうもって言ったよ! 若者はどうもって挨拶するんだよ」

 雫がどうだ、といわんばかりに嬉しそうな顔をこちらに向けてくる。

「若者ってなんだよ」

 ほんの数ミリくらい緩んだ空気。ひとつ吐息をついてから、改めてリクに視線を向ける。

「そんなとこに突っ立ってないで、とりあえず座れば?」

 雫が隣のスツールをバンバン叩いてここここ、と促したけれど、リクは軽く首を振って俺をみた。

「いえ。ちょっと聞きたいことがあっただけですから」

「ふーん、何?」

 コイツが聞きたいことなんて、だいたい想像できるから、敢えてあっさりと聞き返す。
リクは引き結んでいた唇をこじ開けるようにして口をひらいた。

「真琴のことです」

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