第29話

文字数 478文字

「え? Lampoだけど……なんで?」

「なんとなく。僕も行ってみたいから」

 私は慌てて首を振る。

「ダメダメ、そんなの陸のママが許す訳ない」

 行儀や言葉遣いにうるさかった陸のお母さんを思い出す。陸は私をまじまじ見たあと、笑った。軽く吹き出してさえいた。

「母親になんか、どうとでも説明できるし」

昔、ママに怒られちゃうようといって、泣きべそをかいていた陸はもういない。ぼんやりと彼を見つめていると、にっこり微笑まれた。

「冗談冗談。さ、帰ろ」

 いつもどおりの笑顔でそういって、歩き出したから慌てて陸を追いかける。同じ学校とはいえ、部活も友達も全然違うから、昔ほどは話さなくなっていた陸。この横顔は昔と変わらないのに、知らないうちに、男の子から大人になりかけているような気がした。

 それなら私も。もしかしたら変わってきているのかもしれない。遊さんへのこんなキモチは、今まで誰に対しても感じた事などなかったから。
 
 小さな、誰にも邪魔されない自分だけの世界(small world)に、人はずっと住んでいることなど、できないのかもしれない。そんなことを思いつき、私は小さく吐息をついた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み