第16話

文字数 804文字

 毛布をかぶって、床に転がりスースーと寝息をたてている雫の丸い背中を見て、小さく笑う。

「相変わらず振り回してくるよな」

 電気を消してひとり、ベッドにはいった後に苦笑と一緒に、独り言がこぼれてしまった。基本、女は好きじゃない。信用もできない。拘束されるのも、妙な駆け引きをされるのも、俺を自慢のアクセサリーみたいに女同士のマウント争いに利用するのも、鬱陶しい。

 雫とは、いつもベッタリ一緒にいる訳ではない。けれど損得勘定関係なく、緩くつながっている関係は、ラクだ。たぶん、愛情やら親切の押し売りをしてこないからだと思う。ネジが1本、どこかに飛んでしまっている唐突な言動を、面倒だと感じる時もあるけれど、俺を息苦しい気分にはさせない。

 恋愛でもない。友情というにもちょっと違う。親愛の情、に近いかもしれない。やっぱり懐いてきたネコみたいなものか。ふと、真琴の顔が頭をよぎった。真琴は、雫とは対極にあるかもしれない。

 一緒にいると、胸が痛くなるような、息苦しさを覚えてしまうのに、その痛みの先に、何があるのか見たい、そう思ってしまう。この感じは一体なんなんだろう。あんなふうにまっすぐ、好意を寄せてくる女は、本来苦手だ。いつもなら、見ないふりをするか、スルーする。

 兄貴は俺と違ってエリートだから、と貴大さんがよく言っているし、真琴もああみえて親父さんに似て、優秀らしい。大事に育てられているのは、真琴を見ていたら、よくわかる。苦労知らずのお嬢さんの気まぐれに、いちいちつきあっている暇なんかない。

 それでも貴大さんの姪っ子だから無下にはできない。最初はそんなふうに思って、適当に相手をしていたのに。時々みせるあの、思いつめたような瞳。あのどこか憂いを帯びた大きな瞳でまっすぐ見つめられると、落ち着かなくなって、自分でもよく分からない、不思議な焦燥感が襲ってくる。

 リュウグウノツカイの話をしていた時もそうだった。
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