第28話

文字数 710文字

 私は二人が歩いていってしまった方向をみつめたまま、ぼんやりと答えた。

「うん?」

「叔父さんの店、まだ行ってるの?」

「え?」

 顔をあげて横を見ると、あまりみたことがないような真面目な顔をして、陸が私を見ていた。

「行ってるの? 答えて真琴」

 同じ言葉を繰り返した感じが、どこか責める口調に聞こえて。つい強気で言い返す。

「行っちゃ悪い? 親戚の店なんだから問題ないでしょ」

「親戚の店っていったって、バーだよね。そんなところにひとりでいってるって学校にバレたらどうするの? しかも夜で危ないし」

 私は大きく息をついた。陸はそもそも最初から、私がLampoに行くことにいい顔をしていなかったけれど、それでもこんなふうに責めるように言ってきたことなどなかった。

「ちゃんと親の許可もとってるし、貴ちゃん、とかが帰りも送ってくれたりしてるから大丈夫。それを陸にあれこれ言われたくないんだけど」

「貴ちゃんとか……とかってなんだよ……」

  少し乱暴なその言葉遣いにびっくりしてしまう。男子高校生としては別に普通なのかもしれない。だけど陸は小さな頃から、私よりもずっと丁寧な言葉をつかっていて、それは今も続いていた。

「……アイツも真琴を送るわけ?」

「アイツって……」

 キツい口調、強い視線にたじろぐ。こんな陸、知らない。

「さっき目の前にいた男」

「遊さん……のこと?」

「真琴、もしかしてアイツがいるから、バーになんて通ってるの?」

「……それは…………」

咄嗟に言い訳なんて器用なことができなくて。狼狽(うろた)えてしまった私をじっと見つめたあと、

 陸は、小さな息を吐いた。それからいつもの笑顔で、にっこり微笑んだ。

「ところでそのバー、なんて名前?」


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