第110話

文字数 767文字

 外に出ると、モワッとした空気が全身に絡みつく。受験生だから涼しい室内にいる事が多くて、実感はなかったけれど、季節がいつのまにか夏になっている。ボルテージを一気にあげたような西からの強い日差し。顔に、半袖から伸びた腕に、否応なく刺さってくる。

 18歳の夏なのに。あっという間に過ぎていってしまう。受験まで時間がない焦り。でも落ち着かないのは、それだけが理由じゃない。遊さんに、会いたいけれど、会いたくない。そんな感情が私のココロをひりひりと痛くする。まるでやけどをしたときみたいに、顔をしかめてしまう。

 他の誰にもあんな笑顔を見せてほしくなかったし、誰かに触れさせて欲しくなかった。子供っぽい独占欲。裏切られたと思ってしまうこの気持ちが、素直に遊さんと向き合うことを拒んでしまう。

 遊さんは理解できないかもしれない。こんな幼稚な気持ちなんて。私も多分、遊さんのことをわかっていないのかもしれないと思う。私たちはお互い知らないことが沢山ある。たぶん知らないことだらけ。

 隣を歩く陸を見つめる。陸なら。他の女の子が抱きついたり、キスをしてこようとしたら、やんわりと拒否するだろう。陸のことは遊さんより、ずっとわかる。隣で大人びたすました顔をしているけど、昔は泣き虫だったことも。ごくさりげなく気遣ってくれる優しさも。芯の強さも。

 いつの間にか、遊さんと陸を比べている。
もしかしたら陸を幼馴染、というだけじゃなく、ひとりの男の子として見始めているのかな。……わからない。色々な考えが、頭のなかでごちゃごちゃにまざりあって、身体の内側で渦を巻いているような感覚。

 はあ、とおもわずと吐息をつくと、陸がちらりと私を見た。

「真琴、覚えてる?」

「……何を?」

 陸はしばらく私を見つめたあと、小さく呟いた。

「こないだ模試の結果、出たよね」

「……あ!」

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み