第118話

文字数 769文字

 渡したいものがあるんだけど。貴大さんが、困った顔で真琴の手紙を渡してきた時は、息が止まるかと思った。

 どこか納得できない真琴との電話の後、連絡をまっていた時期。こちらから電話しようか、それともメッセージを送ろうか。いや直接会いにいったほうがいいのか。そんな風に逡巡していたのだから、焦るに決まっている。手紙を受け取ったあと、しばらくぼおっとそれを見つめてしまった。

 真琴は一方的に関係を終わらせたいのかもしれない。そう思いついたら、心臓が軋むような気がした。いや、そもそもそんな通達をされるような関係ですらなかった。ちゃんとした告白もしないまま、このまま真琴と縁が切れてしまうなんて冗談じゃない。いてもたってもいられず、貴大さんだけじゃなく、お客もいるというのに、封を切って読んでしまったことを思い出す。

 手紙に書いてあったのは、受験に向けて、本気モードに入るから、スマホは解約したこと。連絡は貴大さんを通じて手紙ですること。真琴が電話で俺に言えなかったことにも触れていた。(Lampo)の前で、雫にキスされているのを見てしまったらしい。それがショックで、連絡することも、メッセージを送ることもできなくなってしまったのだ、と。

 雫が引っ越しを終えて、俺が貸した金を返しに来た時だ。いきなり抱きつかれ、唐突にキスされた。慌てて引き離そうとしたけれど、雫はなぜか涙ぐんでいて。遊がいてよかった。本当によかった。何度もそういう雫を引き剥がすことは、できなくて。好きなようにさせるしかなかった。

 そのくせひとしきり泣いた後、憑き物が落ちたみたいに、気力チャージできたなんていってニカっと笑って、手を振ってあっさり帰ってしまったんだから、本当に人騒がせな奴だ。そんな雫との関係を真琴にどう説明したらいいのか。ため息をついてしまったけれど、続きを読んで驚いた。

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