第33話

文字数 805文字

「うーん。確かにお前の過去は知らない。だけどさ、今の遊のことはわかってるつもりだよ。 無愛想だけど、気もまわるし人の痛みもよくわかる。仕事だって早い。ついでにイラストも上手い」

 相変わらずの口調でそういわれて、やっぱり笑ってしまう。

「……ついでにって、一応美大行ってるんですから、普通の人よりは描けますよ」

 貴大さんもそりゃそうだよな、と笑う。

「まあそんなこと全部ひっくるめて、それが俺の知っている遊だから。お前は良い奴だよ。自信をもっていい」

 まっすぐ見つめてくる瞳。それは胸が痛くなるほどに嘘がなくて。彼の温かい気持ちをダイレクトに伝えてくるから。そんなものに慣れない俺は、視線を外してしまう。そうだ、雫も言っていた。この人と真琴の瞳が重なる、と。

「なんかやっぱり似てますね。貴大さんと真琴」
 
 ため息をつきながらそういう。

「真琴とお前も似てるよ」

「俺と真琴が?  どこが似ているんですか」

びっくりして顔をあげて言い返す。叔父と姪なら似てるのもわかる。だけどお嬢さん育ちで、ニコニコしている真琴と俺なんて、1ミリだって似てやしない。

「そんなにムキになるところがもう、半分は認めてるも同然じゃん」

 軽く睨むけれど、当の貴大さんは幼い子供を慈しむ様な目をして、笑っている。この人にこんなふうに、見られるのが苦手だ。言いたい事が言えなくなってしまうから。

「生きるのに、どこか不器用なところ。でも周りのせいにしないで、自分の足で立って、ひとりで戦おうとする。その強さと(もろ)さのバランスが似てる」

 その言葉にふと違和感を感じた。

「貴大さん、真琴も戦うってどういう……」

 そこまでいいかけた時だった。店の扉が音を小さくたてて、少し開いた。

「……お?! 噂をすれば」

 貴大さんがそういって、意味ありげにこちらに視線を流し、ニヤリと微笑んだから、俺も店の入口を見る。

 ドアの隙間から、真琴がそっと覗きこんでいた。

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