第112話
文字数 714文字
視線を陸に移す。見慣れているはずの横顔。だけどオレンジ色の光のなかにいるせいか、夢のなかにいるみたいで、どこか現実味がない。ぼんやりと頭のなかに響く陸の言葉を口にする。
「遊さんを忘れる……?」
陸は私の問いかけに答えることもなく、こちらを見ようともしない。でもその代わりに、腕をのばしてきて私の小指をそっと握った。熱を帯びた手のひらに包まれた私の小指。陸の体温がこれは現実 であることを教えてくれる。
確かに遊さんのことを忘れて、なかったことにできたら楽かもしれない。そもそも受験生なのだから、恋愛感情に振り回されている場合じゃない。両親の注目を惹きたいっていうきっかけではあったけれど、お医者さんになって竜ちゃんを助けてあげたいって気持ちはもちろんある。
それでもやっぱり医学部受験は勉強がハードで、私なんてお医者さんになれないんじゃないかな、とか、なんでこんなに辛い思いをして勉強しているんだろう、とか。考えだしてしまうと、遊さんのことが頭を過ぎってしまう。
胸が疼いて、苦しくなるほどのせつなさも甘さも、雫さんと一緒にいるところを見てしまったあのキリで刺されてしまったような痛みも。いままで経験したことがないほど鮮やかに私の中に刻み込まれてしまったから。
それらは普段忘れていても、ふとした瞬間、小さな鈴の音色みたいに感情を揺らして、遊さんが心のなかにいることを教えてくる。そうしてまた、心の中でそれらを再現してしまう。
苦しいのに、無意識に求めてしまうこの感覚。よくわからないけど中毒ってこんな感じなのかもしれない。忘れようとしても忘れられない。でも陸なら。もしかしたら、この苦しさから、連れ出してくれるかもしれない。
「遊さんを忘れる……?」
陸は私の問いかけに答えることもなく、こちらを見ようともしない。でもその代わりに、腕をのばしてきて私の小指をそっと握った。熱を帯びた手のひらに包まれた私の小指。陸の体温がこれは
確かに遊さんのことを忘れて、なかったことにできたら楽かもしれない。そもそも受験生なのだから、恋愛感情に振り回されている場合じゃない。両親の注目を惹きたいっていうきっかけではあったけれど、お医者さんになって竜ちゃんを助けてあげたいって気持ちはもちろんある。
それでもやっぱり医学部受験は勉強がハードで、私なんてお医者さんになれないんじゃないかな、とか、なんでこんなに辛い思いをして勉強しているんだろう、とか。考えだしてしまうと、遊さんのことが頭を過ぎってしまう。
胸が疼いて、苦しくなるほどのせつなさも甘さも、雫さんと一緒にいるところを見てしまったあのキリで刺されてしまったような痛みも。いままで経験したことがないほど鮮やかに私の中に刻み込まれてしまったから。
それらは普段忘れていても、ふとした瞬間、小さな鈴の音色みたいに感情を揺らして、遊さんが心のなかにいることを教えてくる。そうしてまた、心の中でそれらを再現してしまう。
苦しいのに、無意識に求めてしまうこの感覚。よくわからないけど中毒ってこんな感じなのかもしれない。忘れようとしても忘れられない。でも陸なら。もしかしたら、この苦しさから、連れ出してくれるかもしれない。