第24話

文字数 860文字

 そのあとも陸と2人で探したけれど、やっぱり目当ての参考書はなかった。店員さんに在庫を確認したら、発注をかけてこちらに届くのは1週間後だと言われ、仕方なく注文はせずにエスカレーターに向かった。

「あーあ。帰ったらネットで注文しなくちゃ」

 ため息まじりにつぶやくと、陸が横でおかしそうに笑う。

「真琴って要領がよさそうで、そうでもないトコ、あるよね」

 それは自分自身、一番痛感していること。他の人にはできるだけみせないようにしているつもりなのに、幼なじみの陸からみたら一目瞭然なのも腹がたつ。

「何よ。じゃあ最初から、ネットで買えばっていえばよかったのに。なんにも言わないで、陸だってついてきたんだから、同類」

 悔し紛れにそういうと、陸は私の言葉に動じることもなく、ちょっと真面目な顔をしてたずねてきた。

「まあ、そうなんだけどさ……。それより真琴、今日塾は?」

「塾? いったん家に帰って、夕方からいくよ」

 今日は学校が午前中で終わって余裕があるから、塾帰りに少しだけでも貴ちゃんのバーに行きたい。でも行ったばかりだから、さすがにお父さんやお母さんも怒るだろう。でもまた遊さんの顔もみたいし……。頭のなかで何か言い訳ができないか、考えてみる。
 
「……ない?」

ぼんやりそんな事を考えていたから、陸の言葉が耳に入っていなかった。慌てて顔をあげたら、昔よく見せていた、困ったような表情が視界に入ってきた。

「ごめん 何? 聞いてなかった」

陸は口を開きかけたけれど、小さく笑って首を振った。

「……いいや、また今度で」

「えー。そんな風に言われたら気になる。言ってよ」

「い、や、だ。ちゃんと聞かない真琴が悪い」

 笑って冗談めかしてはいるけれど、こういう時の陸は間違いなく拗ねている。言い方の微妙なイントネーションでわかってしまう。

「ごめん。謝るから。なに? もう一度言ってみて。ちゃんと聞く」

 じっと私をみたあと、小さな吐息ついて陸が口を開きかけたその時だった。背後から、低い、私を溶かしてしまうあの声が響いてきた。

「真琴?」






ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み