第50話

文字数 960文字

「なんかムカつくな……」

 思わず口に出してしまいハッとする。誤魔化すように、急いでカレーのライス部分にざっくりとスプーンをいれて、口に放り込んだ。

 真琴にメッセージを送ったのに、まさかの既読スルー2日目。自慢じゃないが、こちらから先に、女にメッセージを送信するのも初めてなら、既読スルーされたのも初めて。

 大したメッセージを送ったわけじゃない。ただ、あんなにIDを交換して喜んでいたくせに、この反応のなさは一体なんなんだ。隣でラーメンを食べていた雫が、俺の独り言を聞き逃す訳がない。ぴたりと箸をとめて、覗きこんできた。

「遊が独り言とかかなりレア。おじいちゃんみたい。しかも機嫌悪いよね。一体どうしたのよ?」

 そういって興味津々というように笑うから、ちらりと睨んでため息をついた。

「どうもしないから。ていうかさ、お前なんで美大(ここ)の学食にわざわざきて、飯食ってんの? 今日モデルの仕事ないんだろ?」

 学生でもないのに、たいして旨くもない学食に来る物好きは、雫くらいのものだろう。

「だって。家近いし、……何だか遊と話がしたくなったんだもん」

 雫はまた、視線をラーメンに戻してズルズルと啜る。その横顔をみて、苦笑する。

「お前、またトラブルでもあって愚痴りたくなったんだろ? 例の成金オヤジ?」

 雫はバイトで夜の仕事もしている。この見た目と性格だから、結構人気があるらしい。だがその弊害で、どこかの成金オヤジが自分の専属になれとやたらしつこい、とぼやいていたことを思い出す。

「……まあ、そんなとこ。でもここで遊とラーメン食べていたら、どーでもよくなってきた」

 そういってへらりと無邪気に笑ってみせた。

「それより遊は、ナニにムカついてるの?」

「いや別に。たいしたことじゃない」

「うっそだー。いつもは無表情なのに、珍しく感情が顔に出てたし。お姉さんに教えてごらん?」

 ひどく楽しそうに人の顔を覗きこむから、視線を無理やり、使い込まれたプラスチック製のコップに向ける。

「俺の話はいいよ」

 このコップに入っていると、たとえドンペリでも不味そうにみえるだろうな。そう思いながらぬるくなった水に口をつける。

「あ、わかった! 女の悩みだ!」

 ドヤ顔でそう言われ、飲んでいた水を結構な勢いでふいてしまった。むせていたら雫にゲラゲラ笑われた。


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