第86話
文字数 905文字
「なんだか化粧がおかしくなってるぞ。顔、ぐちゃぐちゃ」
目のまわりが黒くなって、パンダみたいに縁取っている。ついふきだすと雫は口を尖らせた。
「いいよ、別に。今さら遊にぐちゃぐちゃな顔をみられてもどうってことないし」
そういって恥ずかしがる様子もなく、パンダ顔のままで雫はニッと笑ってみせたから苦笑する。
「顔を洗うついでにシャワー使えば? タオルとかTシャツとか適当にだしといてやるから」
「うん。顔も体もなんだかベトベト。スッキリしたいから、そうさせて貰おうかな……」
よいしょとおばさんみたいに掛け声をかけて立ち上って歩き出したのに、不意に止まってこちらを振り返った。
「遊」
「うん? 」
見上げると、パンダ顔の雫が、子供みたいな顔をして笑っていた。
「ホント、めちゃくちゃ感謝してる。それから……」
俺が首を傾げると、雫は怒っているみたいに口を尖らせていった。
「すんごく好き」
いきなりそういわれてさすがに面食らう。ただ”すんごく”という言い方が雫らしくて。ゆっくりと口元が緩む。恐怖から解放された今、感情が多少たかぶっているのかもしれない。軽く冗談めかして答える。
「唐突に告ってきたな」
「ホントにそう思ったから言ったのに。貴大さんにもなかなか言えないのにさ」
雫も相手の反応に敏い。すぐに俺の口ぶりに合わせて、いつものようにわざと口をへの字にして笑ってみせる。
「素直に言えばいいのに」
さらっとそう言ってみる。実際ずっとそう思っていたのもあった。雫はほんの少し瞳を見開いたあと、ふっと視線を落として小さくわらった。
「そうだね。でもさ一歩踏みこむのが、怖かったりもする」
ほんの少し。真面目さを溶かした表情で答えてきた彼女をじっと見つめる。
「俺はずっと片想いしてるからって、言うやつ? ほとんどネタみたいになってるけどさ」
貴大さんが酔った女の客に絡まれるとよく言っているセリフだ。でもまるっきりウソでもないらしい。雫は予想通りくすりと笑って、首を振った。
「うん、それ知ってるし、そういうところも好きだから。でもそれよりも……」
「それよりも?」
雫は少し考えるように、視線を宙に漂わせた後、ゆっくり口を開いた。
目のまわりが黒くなって、パンダみたいに縁取っている。ついふきだすと雫は口を尖らせた。
「いいよ、別に。今さら遊にぐちゃぐちゃな顔をみられてもどうってことないし」
そういって恥ずかしがる様子もなく、パンダ顔のままで雫はニッと笑ってみせたから苦笑する。
「顔を洗うついでにシャワー使えば? タオルとかTシャツとか適当にだしといてやるから」
「うん。顔も体もなんだかベトベト。スッキリしたいから、そうさせて貰おうかな……」
よいしょとおばさんみたいに掛け声をかけて立ち上って歩き出したのに、不意に止まってこちらを振り返った。
「遊」
「うん? 」
見上げると、パンダ顔の雫が、子供みたいな顔をして笑っていた。
「ホント、めちゃくちゃ感謝してる。それから……」
俺が首を傾げると、雫は怒っているみたいに口を尖らせていった。
「すんごく好き」
いきなりそういわれてさすがに面食らう。ただ”すんごく”という言い方が雫らしくて。ゆっくりと口元が緩む。恐怖から解放された今、感情が多少たかぶっているのかもしれない。軽く冗談めかして答える。
「唐突に告ってきたな」
「ホントにそう思ったから言ったのに。貴大さんにもなかなか言えないのにさ」
雫も相手の反応に敏い。すぐに俺の口ぶりに合わせて、いつものようにわざと口をへの字にして笑ってみせる。
「素直に言えばいいのに」
さらっとそう言ってみる。実際ずっとそう思っていたのもあった。雫はほんの少し瞳を見開いたあと、ふっと視線を落として小さくわらった。
「そうだね。でもさ一歩踏みこむのが、怖かったりもする」
ほんの少し。真面目さを溶かした表情で答えてきた彼女をじっと見つめる。
「俺はずっと片想いしてるからって、言うやつ? ほとんどネタみたいになってるけどさ」
貴大さんが酔った女の客に絡まれるとよく言っているセリフだ。でもまるっきりウソでもないらしい。雫は予想通りくすりと笑って、首を振った。
「うん、それ知ってるし、そういうところも好きだから。でもそれよりも……」
「それよりも?」
雫は少し考えるように、視線を宙に漂わせた後、ゆっくり口を開いた。