第81話
文字数 747文字
タップするとメッセージは真琴からだった。
(遊さんに会いたい)
その下には、ひっくり返って駄々をこねるように、足をバタつかせている子犬のスタンプ。つぶらな瞳でチラチラこちらをみている。つい笑ってしまう。送信時間をみると、今日の昼間。この時間帯は学校だから、いつもなら夕方か夜に送信がくるはずなのに。
軽く首を捻り、とりあえず返信をしようと文字をテキスト欄にタップし始めたときに、スマホがブルブルと震えだした。すぐに通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『……』
返答がない。ザワザワした街の音だけが、スマホから響いてくる。
「もしもし?」
もう一度問いかけてみても、やはり反応がない。間違い電話かもしれない。慌てて電話にでたから着信ナンバーを確認していなかった。それを確認してみようとスマホを耳から少し離した時だった。離した耳を追いかけてくるように聞こえた小さなため息。すぐに誰だかわかった。
「雫?」
『……遊……ごめん。仕事中だよね』
ようやく言葉を口にした雫は、珍しく元気がなかった。いや、元気がないというよりも、普段聞いたことがないくらい、気持ちが低いところに沈んでいる。出会ってからこんな声を聞いたことがなかった。
「大丈夫。今日はたまたま休み。どうした?」
いつもみたいに茶化したりせず、ごく自然な口調でたずねる。
『……うん』
そう言ったきり、雫は黙り込んでしまった。背後から響くザワザワとした街の音だけがしばらく耳にはいってくる。俺もあえて急かさずに黙って待っていると、雫は意を決したように吐息をひとつついて、口を開いた。
『部屋に、帰れない』
すごく小さな声だった。
「……なんで?」
せっかくでてきた言葉を止めないように、できるだけなんでもないように聞き返す。
『……あいつが、部屋の前にいる』
(遊さんに会いたい)
その下には、ひっくり返って駄々をこねるように、足をバタつかせている子犬のスタンプ。つぶらな瞳でチラチラこちらをみている。つい笑ってしまう。送信時間をみると、今日の昼間。この時間帯は学校だから、いつもなら夕方か夜に送信がくるはずなのに。
軽く首を捻り、とりあえず返信をしようと文字をテキスト欄にタップし始めたときに、スマホがブルブルと震えだした。すぐに通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『……』
返答がない。ザワザワした街の音だけが、スマホから響いてくる。
「もしもし?」
もう一度問いかけてみても、やはり反応がない。間違い電話かもしれない。慌てて電話にでたから着信ナンバーを確認していなかった。それを確認してみようとスマホを耳から少し離した時だった。離した耳を追いかけてくるように聞こえた小さなため息。すぐに誰だかわかった。
「雫?」
『……遊……ごめん。仕事中だよね』
ようやく言葉を口にした雫は、珍しく元気がなかった。いや、元気がないというよりも、普段聞いたことがないくらい、気持ちが低いところに沈んでいる。出会ってからこんな声を聞いたことがなかった。
「大丈夫。今日はたまたま休み。どうした?」
いつもみたいに茶化したりせず、ごく自然な口調でたずねる。
『……うん』
そう言ったきり、雫は黙り込んでしまった。背後から響くザワザワとした街の音だけがしばらく耳にはいってくる。俺もあえて急かさずに黙って待っていると、雫は意を決したように吐息をひとつついて、口を開いた。
『部屋に、帰れない』
すごく小さな声だった。
「……なんで?」
せっかくでてきた言葉を止めないように、できるだけなんでもないように聞き返す。
『……あいつが、部屋の前にいる』