第20話

文字数 779文字

「真琴ー!」

 学校の下駄箱。階段のほうから、私を呼ぶ声に気づいても、あえて振り向かない。無視してどんどん歩いていると、声の主が、隣に走りこんできて、ぜーぜーと大袈裟に息をして見せる。

「無視とか酷くない? 一緒に帰ろうよ」

 私にはあまり友達がいない。勿論、ぼっちにならない程度に話をする子はいる。でも打ち明け話をしたり、毎日トークアプリでメッセージをやり取りするような子はいないから、定期考査明け、午前中で学校が終わったら、さっさと教室からでてしまう。

 横でニコニコしている男。高木陸(たかぎりく)は別だ。家が近所で、幼稚園から一緒の幼なじみ。しかも今は同じ高校でおなじ理系クラス。

「私、帰りに参考書買って帰るから、すぐに電車乗らないよ?」

 教室ではとってつけたように浮かべる笑顔も、陸の前ではしない。もう素のまま、素っ気なくいう。

「何を買うの?」

「化学重要問題集」

「あー、そろそろ先生が解きはじめろって言ってたよね。じゃ、僕も買おうかな」

 陸は財布の中身を確認して、お金あるから買えるやと笑う。身内みたいなものだから、私の態度など、いまさら気にも留めず屈託なく笑う。

「陸は、田中たちと遊んだりしないの?」

 高3になり、完全に受験生モードだけど、今日くらいはごはんを食べにいったり、カラオケをしようなんて話をクラスの皆がしていた。私よりクラスになじんで楽しそうにやっている陸はてっきり、彼らとどこかに行くのかと思っていた。

「うーん。今日は気分じゃないかなって」

 そういってにこっと笑う。この笑顔も幼稚園の頃からぜんぜん変わっていない。ママたちから天使のほほ笑みなんて、言われていたっけ。

 陸は、男子としては小柄で威圧感がない。さらさらの髪の毛、くりくりしている瞳。かわいい顔立ちは高校生になっても健在。穏やかな雰囲気で人当たりもいいから、結構女子にも人気があるらしい。
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