第96話
文字数 918文字
「俺だったら真琴をひとりで泣かせたりしないのに」
その声は昔、無茶をしている私を心配して、そっと寄り添ってくれていた時と同じ空気を感じた。小さくて頼りないくせに、一生懸命私を守ろうとしてくれていた幼いころの陸。 一緒にいる時間の長さと陸の気持ちが心に沁みて、涙がでてきてしまいそうになる。
たぶん陸のそばにいたら、昔と変わらない穏やかな気持ちでいられる。苦しい時、今みたいにやっぱり黙ってそばにいて、私がやりたいようにやるのを見守ってくれるのだろう。泣いても落ち着くまで待って、そっと抱きしめてくれるはず。
でもそんな陸を利用するなんて。私がそっと体を離すと、今度は陸も引き留めなかった。
「やっぱりだめ」
「なにが?」
静かに問いかけてくるその言葉に押されるように、顔を見上げると、切なげな瞳が私をじっと見つめていた。
「都合のいいときだけ、陸を利用するってことでしょ? そんなことできない」
言葉にして、はっきりと感じた。陸はとても大事なひとなのだ。たくさんの思い出を共有して、家族のように一緒に大きくなってきた。そんな人を"利用する”なんてしてはいけない。
陸への感情は、恋、とかじゃないのだから。でもふと思う。もし陸が私のそばから、いなくなったら? いてもたってもいられないような痛みもこみあげてくる。陸はしばらくじっと私を見つめたあと、そっと微笑んだ。その笑顔はなぜか泣き出すまえの小さな陸を思い出させた。
「俺がいいから、いいの。だって真琴、気づくだろうから。俺のほうが真琴に似合ってるって」
そういった後は、いつもの涼しげな瞳に戻っていて、からかうように笑っていたから。私も力が抜けて笑ってしまう。
「すごい自信」
「まあね。じゃ、そろそろ帰ろうか」
何事もなかったように陸はそういって、話を切り上げた。そうして私を家に送り届けると、じゃあまた、といつもどおりの笑顔で、帰っていった。その後ろ姿を見送りながら、どこか落ち着かない感覚が小さな塊みたいに、胸の奥で揺れているのを感じていた。
遊さんへの気持ち。陸の気持ち。それらが混じり合って私の心を、揺さぶるから。その感覚はしばらく続いて、その夜はなかなか私を寝かせてくれなかった。
その声は昔、無茶をしている私を心配して、そっと寄り添ってくれていた時と同じ空気を感じた。小さくて頼りないくせに、一生懸命私を守ろうとしてくれていた幼いころの陸。 一緒にいる時間の長さと陸の気持ちが心に沁みて、涙がでてきてしまいそうになる。
たぶん陸のそばにいたら、昔と変わらない穏やかな気持ちでいられる。苦しい時、今みたいにやっぱり黙ってそばにいて、私がやりたいようにやるのを見守ってくれるのだろう。泣いても落ち着くまで待って、そっと抱きしめてくれるはず。
でもそんな陸を利用するなんて。私がそっと体を離すと、今度は陸も引き留めなかった。
「やっぱりだめ」
「なにが?」
静かに問いかけてくるその言葉に押されるように、顔を見上げると、切なげな瞳が私をじっと見つめていた。
「都合のいいときだけ、陸を利用するってことでしょ? そんなことできない」
言葉にして、はっきりと感じた。陸はとても大事なひとなのだ。たくさんの思い出を共有して、家族のように一緒に大きくなってきた。そんな人を"利用する”なんてしてはいけない。
陸への感情は、恋、とかじゃないのだから。でもふと思う。もし陸が私のそばから、いなくなったら? いてもたってもいられないような痛みもこみあげてくる。陸はしばらくじっと私を見つめたあと、そっと微笑んだ。その笑顔はなぜか泣き出すまえの小さな陸を思い出させた。
「俺がいいから、いいの。だって真琴、気づくだろうから。俺のほうが真琴に似合ってるって」
そういった後は、いつもの涼しげな瞳に戻っていて、からかうように笑っていたから。私も力が抜けて笑ってしまう。
「すごい自信」
「まあね。じゃ、そろそろ帰ろうか」
何事もなかったように陸はそういって、話を切り上げた。そうして私を家に送り届けると、じゃあまた、といつもどおりの笑顔で、帰っていった。その後ろ姿を見送りながら、どこか落ち着かない感覚が小さな塊みたいに、胸の奥で揺れているのを感じていた。
遊さんへの気持ち。陸の気持ち。それらが混じり合って私の心を、揺さぶるから。その感覚はしばらく続いて、その夜はなかなか私を寝かせてくれなかった。