別世界からの侵略「後編」(7)
文字数 1,872文字
天井を破壊され、シャワーがゲリラ豪雨の様に振りそそぎ、その水が足元に溜まっていく皇帝の間、そこで大悪魔皇帝とSPA-1は1対1で闘っていた。
このSPA-1の身体は、僕ではなく、本人の意志で動かされている。
直ぐ呪文を使わなかったのは、自身の妹に対する彼の対抗心だったのか、それともこの愚かで狂った欲望の権化に身の程を知らせようとしたのか?
大悪魔皇帝は、SPA-1の身体に幾度となくサーベルを叩き込み、何度となくその切っ先をSPA-1の身体に突き立てていた。だが、しかし、彼に傷一つ付けさせることも出来ない。
このSPA-1の身体は、敵の攻撃の当たる瞬間に鋼鉄の様に硬化するのだ。そして皇帝の腕では、目や口など、弱点と思われそうな箇所に命中させることなども出来はしなかった。
SPA-1は右のボディブロウをアッパー気味に叩き込んだ。もう、その一撃で大悪魔皇帝は立ち上がることも出来ない。人間の何倍もの耐久力があると言われる大悪魔ですら、SPA-1の拳の威力には悶絶せざる得ないのだ。
さあ、もう良いだろう。
SPA-1は少し離れ、『極光乱舞』という彼の持つ氷結技を発射した。
すると直ぐに、僕と大悪魔皇帝、そして足元を流れる水がオーロラの様に七色の光を放ちながら凍り付いていく。
「分子の振動、つまり熱エネルギーだが、これは一定量を越えると決まった色の光子を発するものなんだ。だから、温度に比例して赤から橙、黄色、そして青と、光子のエネルギーは変化していく。
だが、この『極光乱舞』と言う技は、現在の温度に関係無く、分子振動から強引に光子を引きずり出す触媒の様な作用を行うものなのだ。これで、その作用の範囲内の物は、無理矢理に熱エネルギーを光エネルギーに変換させられてしまうのだ!」
僕には、彼の説明は良く分からなかった。だが、この技を掛けられた相手は、七色の光を放ちながら凍ってしまうと言うことだけは理解できた。そして、上から降ってきた雨の様な水も、もう扉の外に流れていくことも出来ず、徐々に増水していき、僕たちの身体を水没、いや氷没させようとしていることも。
その頃、港町隊員と大師隊員を乗せた異星人警備隊の宇宙船は、敵艦の集まっている場所での自爆をしようと、強引な突進を試みていた……。
既に何発かの攻撃をバリアの上から被弾し、エンジン出力、バリア強度も低下、宇宙船は自爆することもかなわず、虚しく撃墜される寸前の状態であった。
僕たちの船が比較的長持ちした理由は、敵である大悪魔軍の宇宙船団が、主に地上攻撃用の爆撃艇で構成されていた為だ。
だが、それでも戦闘艦は存在していたし、光線砲や体宇宙船用のロケット弾だつて、少なからず積んでいるのだ。単純比較では、数に頼む敵の大船団の総火力は、僕たち異星人警備隊の宇宙船の何千倍にもなっていた筈だ。
そして今、異星人警備隊の船へと正面から何十発ものロケット弾が向かって来ている。これを食ったら、いくらバリアで防いでいるといっても、宇宙船の船体は粉々に破壊されてしまうだろう。
大師隊員、そして港町隊員が死を覚悟した、まさにその時だった。
彼らの目前で、ロケット弾が突然巨大化し、全く見えなくなってしまったのだ。
それは、いわゆるブラックホールだった。小指の先位の大きさだったが、後方からの光を曲げる為、大師隊員たちには、レンズを通してみた世界の様な画像が目に映ったのだ。
そして、そのブラックホールは、彼らを吸い込むことなく、高速で敵艦隊の中心へと移動していった。
「危ない所だったわ……」
「何をやったの?」
「大師隊員たちを、大悪魔のロケット弾から空間を歪めて防いだのよ。その盾は光も物質も、何もかもエネルギーへと分解して、その歪みに捉えてしまう」
「凄い……」
「でもね、中性子星の核の様なものが無いと、ブラックホールって長時間維持できないのよ。だからね、直ぐに歪みが解けてエネルギーは全て解放されてしまうの……」
「え、すると……」
小惑星帯の程近く、火星軌道の外側で、その日、太陽が二つ現れたかと思われる超新星爆発が発生した。
だが、地球には特別放射線が降り注いだなどと言うことも無く、ただ不可思議な天体現象が、そこで起こったと言うだけのことだった。
そして、地球にとって幸運だったことに、この超新星爆発によって、地球、ひいてはこの時空の全てを侵略し、その支配下に置こうとの野望を持って侵攻していた大悪魔軍の大船団が、元寇が神風に依って追い払われた様に、偶然にも一掃されることになったのである。
このSPA-1の身体は、僕ではなく、本人の意志で動かされている。
直ぐ呪文を使わなかったのは、自身の妹に対する彼の対抗心だったのか、それともこの愚かで狂った欲望の権化に身の程を知らせようとしたのか?
大悪魔皇帝は、SPA-1の身体に幾度となくサーベルを叩き込み、何度となくその切っ先をSPA-1の身体に突き立てていた。だが、しかし、彼に傷一つ付けさせることも出来ない。
このSPA-1の身体は、敵の攻撃の当たる瞬間に鋼鉄の様に硬化するのだ。そして皇帝の腕では、目や口など、弱点と思われそうな箇所に命中させることなども出来はしなかった。
SPA-1は右のボディブロウをアッパー気味に叩き込んだ。もう、その一撃で大悪魔皇帝は立ち上がることも出来ない。人間の何倍もの耐久力があると言われる大悪魔ですら、SPA-1の拳の威力には悶絶せざる得ないのだ。
さあ、もう良いだろう。
SPA-1は少し離れ、『極光乱舞』という彼の持つ氷結技を発射した。
すると直ぐに、僕と大悪魔皇帝、そして足元を流れる水がオーロラの様に七色の光を放ちながら凍り付いていく。
「分子の振動、つまり熱エネルギーだが、これは一定量を越えると決まった色の光子を発するものなんだ。だから、温度に比例して赤から橙、黄色、そして青と、光子のエネルギーは変化していく。
だが、この『極光乱舞』と言う技は、現在の温度に関係無く、分子振動から強引に光子を引きずり出す触媒の様な作用を行うものなのだ。これで、その作用の範囲内の物は、無理矢理に熱エネルギーを光エネルギーに変換させられてしまうのだ!」
僕には、彼の説明は良く分からなかった。だが、この技を掛けられた相手は、七色の光を放ちながら凍ってしまうと言うことだけは理解できた。そして、上から降ってきた雨の様な水も、もう扉の外に流れていくことも出来ず、徐々に増水していき、僕たちの身体を水没、いや氷没させようとしていることも。
その頃、港町隊員と大師隊員を乗せた異星人警備隊の宇宙船は、敵艦の集まっている場所での自爆をしようと、強引な突進を試みていた……。
既に何発かの攻撃をバリアの上から被弾し、エンジン出力、バリア強度も低下、宇宙船は自爆することもかなわず、虚しく撃墜される寸前の状態であった。
僕たちの船が比較的長持ちした理由は、敵である大悪魔軍の宇宙船団が、主に地上攻撃用の爆撃艇で構成されていた為だ。
だが、それでも戦闘艦は存在していたし、光線砲や体宇宙船用のロケット弾だつて、少なからず積んでいるのだ。単純比較では、数に頼む敵の大船団の総火力は、僕たち異星人警備隊の宇宙船の何千倍にもなっていた筈だ。
そして今、異星人警備隊の船へと正面から何十発ものロケット弾が向かって来ている。これを食ったら、いくらバリアで防いでいるといっても、宇宙船の船体は粉々に破壊されてしまうだろう。
大師隊員、そして港町隊員が死を覚悟した、まさにその時だった。
彼らの目前で、ロケット弾が突然巨大化し、全く見えなくなってしまったのだ。
それは、いわゆるブラックホールだった。小指の先位の大きさだったが、後方からの光を曲げる為、大師隊員たちには、レンズを通してみた世界の様な画像が目に映ったのだ。
そして、そのブラックホールは、彼らを吸い込むことなく、高速で敵艦隊の中心へと移動していった。
「危ない所だったわ……」
「何をやったの?」
「大師隊員たちを、大悪魔のロケット弾から空間を歪めて防いだのよ。その盾は光も物質も、何もかもエネルギーへと分解して、その歪みに捉えてしまう」
「凄い……」
「でもね、中性子星の核の様なものが無いと、ブラックホールって長時間維持できないのよ。だからね、直ぐに歪みが解けてエネルギーは全て解放されてしまうの……」
「え、すると……」
小惑星帯の程近く、火星軌道の外側で、その日、太陽が二つ現れたかと思われる超新星爆発が発生した。
だが、地球には特別放射線が降り注いだなどと言うことも無く、ただ不可思議な天体現象が、そこで起こったと言うだけのことだった。
そして、地球にとって幸運だったことに、この超新星爆発によって、地球、ひいてはこの時空の全てを侵略し、その支配下に置こうとの野望を持って侵攻していた大悪魔軍の大船団が、元寇が神風に依って追い払われた様に、偶然にも一掃されることになったのである。