別世界からの侵略「後編」(8)

文字数 1,762文字

 僕が目を醒ますと、そこは宇宙船の脱出用カプセルの中だった。
「アルトロ、どうなったんだ?」
「見ての通りだよ。チョウ、私にも全く訳が分からない。ただ、巨大な爆発が起きて、敵宇宙船の殆んどが撃墜されたみたいだね。脱出した大悪魔たちも、自分たちで小さな時空の裂け目を開いて逃げて行った様だよ」
「それにしても、そんな凄い爆発があったと言うのに、僕たちのカプセルは良く無事だったな……」
「偶然ではないね。僕たちのカプセルに何らかの防御幕(シールド)が貼られ、爆発の衝撃から守っていてくれたんだ。で、大悪魔皇帝の方はどうだ?」
 僕は大悪魔皇帝との戦いについて、アルトロに説明した。そして、SPA-1との最後の会話を伝えたのである。

 あの時、彼はこう言っていた……。
「チョウ君、実は僕たちは死んでしまう訳では無いんだ。さっきのは、チョウ君の覚悟を確かめたかっただけなのさ。君に覚悟が無いのなら、僕だって、態々こんな面倒なことしたく無いからね。君はこれから元の身体に戻すよ」
「え、でも、あなただけが、永遠に氷漬けになってしまうなんて……」
「僕も大丈夫、ちゃんと脱出することが出来るんだ」
「でも、氷を溶かすには、あなたと同等以上の魔法使いが必要だって……」
「一年前なら、妹のやつも暇してるだろうから大丈夫さ。『小惑星探査を利用して何とかしろ』って、一年前の僕から妹に助けを求めて貰ったよ。元々(あいつ)が、無責任にも僕たちに、大悪魔皇帝の始末を任せて、1人でどこかに行ってしまったのが悪いんだからね」
「??」
「位相変換が出来るのは、何も大悪魔皇帝だけじゃない、僕にだって出来るんだ。ただ、僕の場合は、未来の自分との状態交換になるんだけどね……。
 僕は氷漬けになった後、この身体を、一年前この時空にやってきたばかりの僕に、呪文で位相変換してもらう心算なんだ。僕には、過去の自分に伝言をする悪魔の能力がある。これで一年前の僕に、今の状況を説明したから、それで全てを上手くやってくれると思うよ」
「???」
「分からないだろうが、それで、一年前の僕が氷漬けになり、今の僕は何事もなく脱出できるのさ」
「????」
「僕にも詳しくは分からなかったが、こういうことだったんだ……」
「?????」
 この後、僕は自分の身体へと飛ばされた。だが、この話をしたものの、結局アルトロにも、彼の話は理解できなかったらしい。

 その後、僕らのカプセルは、救助信号を見つけてくれた異星人警備隊の宇宙船に回収され、港町隊員と大師隊員によって宇宙船内へと運び込まれた。
 僕は、宇宙船に戻った時、あまりに派手に壊されていたので、「この宇宙船、ほんと良く飛んでいるよなぁ」なんて、驚きの声を上げてしまった程だった。
 それから、僕らのカプセル回収の後、脱出用カプセルが3つ回収された。(いず)れも救助信号を出していなかった為、回収は思ったより時間の掛かる作業になってしまったのだ。
 川崎隊長は何とか生きていたが、東門隊員の方は、流れ弾が脱出用カプセルに当たり、カプセル内の空気が漏れたことが原因で、発見された時には、既に命を失った状態であった。
 彼女は僕たちの誰にも看取られることなく、カプセルの中で青ざめた顔に霜を纏いながら1人孤独に死んでいた。
 彼女は死の時まで孤独だったのだろうか? それとも、これでやっと彼女は、ご両親や弟さんと一緒になれたのだろうか? それは僕にもアルトロにも、誰にも決して分かる筈のないことだった。
 港町隊員は、東門隊員が死んだことを自分の責任の様に言い続けていた。だが、それは川崎隊長が言う様に、一つの偶然に過ぎないことだ。勿論、そんなことは港町隊員にだって分かっていただろう。それでも、彼の一番助けたかった命が、結局は失われてしまったと言う事実が、港町隊員にとって、悔やんでも悔やみきれなかったものなのに違いない。
 もう一つ、ストラーダ隊員を乗せて流した脱出用カプセルは、ハッチが開かれた状態になっていて、中には誰も乗ってはいなかった。僕たちは付近を(くま)なく探したのだが、結局、最後まで彼女を見つけることは出来なかったのである。

 だが、あれは、僕の空耳だったのだろうか……?
 僕は、僕の親しい友人とその保護者の声を、自分が脱出用カプセルに戻るときに、幽かに聞いた気がしたのだが……。
 
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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