天使降臨(3)

文字数 2,225文字

 その夜、僕たち異星人警備隊は、小島作戦参謀の命により、会議のテーブルに全員集められていた。
 今回の参謀は、いつもと違い、緊張の面差しで、「私、秘書だから……」みたいな、脱力的な雰囲気はまるで無い。

「全員、今度、あいつを見つけたら、有無を言わせず、必ず抹殺するのよ。良いわね!」
「でもさ、参謀、あいつ別に悪い奴に見えないんだけど……」
 正直、僕も港町隊員の意見に賛成だ。少女は破壊活動も違法行為も行っていない。ただ、人間が同じ少女の姿に変身したに過ぎないのだ。それも、人間の方が勝手に彼女の手首を掴み、勝手に変身しただけのことなのだから……。
「馬鹿言わないで頂戴。これは完全な侵略。人類に対する挑戦よ!」
「でも、どうして、これが侵略になるんですか?」
 僕も質問せずにはいられない。
「考えてみてチョウ君。彼女に触れた者は、皆少女になってしまうのよ。老若男女例外なくね。お年寄りは皆少女になって、もう一度人生を楽しもうとするわ。でも、彼らは働かない。けど長生きする。だから、老齢年金機構は破綻するでしょう?」
「だったら、働かせりゃいいじゃんか」
「そんなに数多く、少女の雇用があると思う?」
 確かに、老人の殆どが少女に戻って就職しようものなら、本来の求職者の職は一気に奪われてしまう。そうなると、一気に失業率が跳ね上がって、世の中がとんでもないことになってしまう。
「これは冗談だけど……」
 冗談かい!!
「でもね、本当に恐ろしいのはそこじゃないの。本当に恐ろしいのは、人類が絶滅するかも知れないってことなのよ……」

 本当に恐ろしいこと?
 人類が絶滅する??
「少女になった人は、恐ろしさに気付く前に多くの人を少女に変えてしまうでしょうね。例えば、少女になった方にお子さんがいたとしたら、抱っこしたり、手を繋いだりすることを、禁止って訳には行かないわよね。そうなると、お子さんは一時間で成長して少女になる。心はまだ大人になっていないのに……。
 そんな少女は、分別のなど無く無差別に仲間を増やすわ。少女に限らない。触れれば少女になると言う状況では、それを押し留めることは難しい……」
 確かに有り得ない話ではない。ある意味人間に被害の無い雑菌の感染みたいなものだ。感染者でない人間を探す方が難しいだろう。
「仮に既婚の男の人が例の少女になったとしましょう。このご夫婦は女同士になり、もう子供を作ることが出来なくなるわよね。
 普通の男の人と、変身した少女が結婚したとしましょう。この場合も子供が生まれることはないわ。だって、新郎が一時間で少女になってしまうのですもの。それは、既婚の奥様が少女になっても同じ、今後このご夫婦に子供が出来ることはないわ。
 こうして、いつか人類全員が少女の姿になった時、もう新たに、子孫が生まれることは無くなるのよ」
 僕はその恐ろしい侵略方法に唾を飲み込んだ。これって、人間の生殖機能を破壊する、生物兵器そのものじゃないか!
「でもさ参謀、そうなったら、人類は老衰で亡くなることは無いんだよね。年取ったら少女に戻ればいいんだもん。だったら少女の姿で無限に生きられるんじゃないの?」
 大師隊員が小島参謀に質問する。
「大師隊員、人間の死因は老衰によるものだけじゃないのよ。事故、病気、殺人……、そうして死んで行った人間の頭数は、決して補充されないわ。結局、最後には人類は死滅することになるのよ」
 流石に、大師隊員も言葉を失った様だった。
 我々は速やかに感染者を隔離し、これ以上の感染拡大を抑止、治療法を早急に開発すると共に、この災害の元凶を抹殺する必要があることを、今やっと認識できた。

「小島参謀、あの少女を駆除する必要性については理解できました。では、どの様に少女を駆除するか、今回の作戦についてご説明頂けますか?」
 川崎隊長が小島参謀に質問をする。
「正直、彼女の情報が少なすぎるわ。私もあの様な異星人は初めてよ。いえ、異星人ですら無いかも知れないわね……。
 現時点では、第二種警戒態勢を引き、川崎隊長、港町隊員、鈴木隊員の三名は、彼女の出現に備えて、ヌディブランコ1号で都内をパトロール。ストラーダ隊員と東門隊員は、科学班と合同で、患者サンプル細胞の解析と治療薬の開発支援。そんなところかしらね。
 ただ、港町隊員は特別任務として、彼女の出現時の画像取得を命じます。どうやって、突然、現れたり消えたり出来るのか、その秘密を探るのよ。そうは言っても、優先事項は少女の駆除。ヌディブランコ1号の三隊員には、都市部でのレイガン使用を許可します。少女確認次第、速やかに射殺してください」

 僕は少女のことで、ちょっと、気になることがあった。
「あの~~」
「どうしたの? チョウ君」
「少女とか、彼女っての()めません? 何か攻撃し難いんですけど……」
 僕の意見は、川崎隊長、港町隊員、大師隊員には納得された様だったが、東門隊員やストラーダ隊員には理解されなかった様で、「何言ってるの? 今、そんなの関係ないじゃん」みたいな表情で、呆れられてしまった。
「分かったわ。じゃ彼女に名前を付けるわね。ヨーコってのはどうかしら?」
「ヨーコ?」
「そう、私の知り合いの名前よ」
 まぁ、名前を付けてくれたのは有難いが、これでは、前とあまり変わらない気がする……。それにしても、自分の知り合いの名前を、これから倒す異星人に付けるなんて、小島参謀って、どういう神経しているんだろう?
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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