異星人警備隊(2)
文字数 1,330文字
僕はバスの運転手に断わりを入れ、道を歩いていくことにした。運転手が許可を出したか、拒否したかは確認しなかったが、料金は前払いだ。別に乗り逃げと言う訳にもならないだろう。
それにもし、もう一人の自分が正しいのならば、僕の行動を阻止する為に、何者かがまたバスに跳び込んで来ないとも限らないのだ。そんなことをさせる訳にはいかない。
僕が面接会場のある駅前への近道を取ろうと、路地に入って一つ曲がったところだった。普通のお祖父さんにしか見えない老人が、突然僕に殴り掛かってきた。僕は一瞬、どうして良いか分からず、逃げもせず、両手で頭を抱えて、その場に立ち竦んでしまった。
だが、何も起こらない。
いや、正確には僕は何も気付かなかったと言う方が正しいのだろう。
僕がどうしたのかと目を開いて見てみると、老人は人家の生垣に身体ごと突っ込んで、頭から血を出して意識を失っていた。僕が遣ったのだろうか?
「取り敢えず、病院に連絡しなければ」
僕はそう思って携帯を取り出した。だが、そこには一つのメールが表示されていた。
「無視すべきだ。これも君を足止めする為の敵の策略なんだ」
「だけど……」
「良いかい、君がそうすれば、敵は図に乗ってどんどんエスカレートしてくるんだ。今は被害者が一人でも少なくなるように、人を避け、急いで移動することが肝要なんだ」
僕は彼の言葉の真偽も確かめず、暗示にでも掛かったかの様に、彼の言葉に従って道を急ぎ走った。
確かに彼の言う通り、それ以降は僕を阻止しようと攻撃してくる者は誰もいなかった。
僕はこの長い距離を、短距離走の選手の様なスピードで駆け抜けた。これは僕の走力の最大速度限界なのだろう。だが、疲れない。短時間、僕を見ている人は何も思わないだろうが、ずっと見ている人がもしいれば、異常と感じるに違いない。これはマラソンランナー並みの速度なのだ。
僕は目的のビルに到達し、目的の階まで階段で駆け登った。彼が言うには「エレベータでは停電を起こされる危険性がある。階段の方が遥かに早い」との事だった。
常識で考えれば、早く着く為に、15階までを階段で駆け上がろうとは誰も思わないだろう。だが、ここまでの走りのことを考えると、僕も彼の言うことが間違っていないことに確信を持っている。
面接会場の入り口には、白い布を被せ、面接受付と書かれた張り紙の貼った机があり、そこで女子社員と思われる担当者が、来訪者を記帳する為のノートを用意して待っていた。
「ご記入をお願いします」
言葉に従い、僕は机越しに彼女の前に立ち、就職希望の来訪者として自分の名前を書こうとした。だが、僕の手は止まった。
開いてなかった筈の緑色の表紙のノートが開かれており、そこに既に自分の名前と住所が記されていたのだ。
僕は驚いて、思わず彼女の表情を覗き込んだ。すると、目の錯覚か、彼女の額にもう一つの目があって、僕を睨んでいる様であった。
「特別面接のお客様ですね。係の者が参りますので、その者について特別室の方でお待ちください」
女性は微笑む様に笑いながら、僕にそう告げていた。彼女にお辞儀をし、再び彼女の顔を見てみたが、もう、その額に、目などどこにも無く、痕跡すら残ってはいなかった。
それにもし、もう一人の自分が正しいのならば、僕の行動を阻止する為に、何者かがまたバスに跳び込んで来ないとも限らないのだ。そんなことをさせる訳にはいかない。
僕が面接会場のある駅前への近道を取ろうと、路地に入って一つ曲がったところだった。普通のお祖父さんにしか見えない老人が、突然僕に殴り掛かってきた。僕は一瞬、どうして良いか分からず、逃げもせず、両手で頭を抱えて、その場に立ち竦んでしまった。
だが、何も起こらない。
いや、正確には僕は何も気付かなかったと言う方が正しいのだろう。
僕がどうしたのかと目を開いて見てみると、老人は人家の生垣に身体ごと突っ込んで、頭から血を出して意識を失っていた。僕が遣ったのだろうか?
「取り敢えず、病院に連絡しなければ」
僕はそう思って携帯を取り出した。だが、そこには一つのメールが表示されていた。
「無視すべきだ。これも君を足止めする為の敵の策略なんだ」
「だけど……」
「良いかい、君がそうすれば、敵は図に乗ってどんどんエスカレートしてくるんだ。今は被害者が一人でも少なくなるように、人を避け、急いで移動することが肝要なんだ」
僕は彼の言葉の真偽も確かめず、暗示にでも掛かったかの様に、彼の言葉に従って道を急ぎ走った。
確かに彼の言う通り、それ以降は僕を阻止しようと攻撃してくる者は誰もいなかった。
僕はこの長い距離を、短距離走の選手の様なスピードで駆け抜けた。これは僕の走力の最大速度限界なのだろう。だが、疲れない。短時間、僕を見ている人は何も思わないだろうが、ずっと見ている人がもしいれば、異常と感じるに違いない。これはマラソンランナー並みの速度なのだ。
僕は目的のビルに到達し、目的の階まで階段で駆け登った。彼が言うには「エレベータでは停電を起こされる危険性がある。階段の方が遥かに早い」との事だった。
常識で考えれば、早く着く為に、15階までを階段で駆け上がろうとは誰も思わないだろう。だが、ここまでの走りのことを考えると、僕も彼の言うことが間違っていないことに確信を持っている。
面接会場の入り口には、白い布を被せ、面接受付と書かれた張り紙の貼った机があり、そこで女子社員と思われる担当者が、来訪者を記帳する為のノートを用意して待っていた。
「ご記入をお願いします」
言葉に従い、僕は机越しに彼女の前に立ち、就職希望の来訪者として自分の名前を書こうとした。だが、僕の手は止まった。
開いてなかった筈の緑色の表紙のノートが開かれており、そこに既に自分の名前と住所が記されていたのだ。
僕は驚いて、思わず彼女の表情を覗き込んだ。すると、目の錯覚か、彼女の額にもう一つの目があって、僕を睨んでいる様であった。
「特別面接のお客様ですね。係の者が参りますので、その者について特別室の方でお待ちください」
女性は微笑む様に笑いながら、僕にそう告げていた。彼女にお辞儀をし、再び彼女の顔を見てみたが、もう、その額に、目などどこにも無く、痕跡すら残ってはいなかった。