不協和音(5)

文字数 1,245文字

 憑依を解いて意識を取り戻すと、僕は元の自宅のベッドで天井を眺めていた。
「それにしても、アルトロ、最後のは、突然どうしたんだ?」
「あいつの腹部には、小型原子炉があったそうだ。そいつを破壊したら、我々は大丈夫だけど、あそこにいた全員は助からない。だからだそうだ」
 うわっ、危ない所だった。
 ってことは、あいつ、囮ロボットだったってことか……。
「囮ロボットだったかどうかは分からないね。あの装甲とかメカとかを考えると、自爆用にしてはちょっと高価過ぎると私は思うよ。それに、あれには特殊な技術が用いられている。そう簡単に自爆させるとは、ちょっと考え難いね」
「特殊な技術?」
「ああ、あいつは正確にはロボットではなく、サイボーグだったらしい」
「サイボーグ?」
 僕は突飛な話しが続くので、もうアルトロの台詞を繰り返すしか無かった。
「丁度、SPA-1と反対さ。身体の方が原子力で動くロボットで、脳だけが生物の物を使用しているらしい」
 な、なんて非人道的な……。
「ま、彼らも人間の物を使うのは憚られたらしくて、類人猿の物が使用されているみたいだとのことだけど、それでも真っ当な感覚じゃないと私も思うね」
「それにしても、どうして、そんなことが分かったんだ? あの短い憑依時間の中で」
「彼が教えてくれたんだよ。奴を倒したのも実は彼さ」
 ああ、またSPA-1が勝手に動いたってのね。でも、本当にSPA-1なのかな? 例えばアルトロが……。
「私を疑うのかい? まぁ当然だろうね。チョウには、どっちが制御していたのか判別が付かないからね。今の話しも、全て作り話だって考えることも出来るしね」
「お、おい、例えばの話しだよ」
「いや、そう思うのも無理はないよ。彼の行動には、私も確かに違和感を感じずにはいられないんだ。
 彼の思考は、僕たちが想像している超異星人とは全く異なっている。宇宙を破滅寸前に追いやった破壊神とも言うべき魔神ではなく、なんか、そうだな、人の良い、学校の先生の様な緩いタイプの人なんだ……」
 確かに、アルトロが彼の仕業だと言った闘いは、僕やアルトロ以上に平和的だった。なんか、虫一匹殺すのも自分は嫌だと言う様な感じで……。
「僕とかアルトロが何度も憑依したんで、僕たちの平和を愛する感情が伝染したのかも知れないな」
「その辺は何とも言えないが、彼がチョウの身体を乗っ取って、世界を再び恐怖に落とそうとしないことには、我々も感謝しないといけないだろうね」

 そうなのだ、彼は一度、僕の身体に逆に憑依したことがある。僕がいて、アルトロがいるにも関わらずだ。
 僕は一瞬で身体の制御が利かなくなり、アルトロが言うには、彼も上から憑依され身動きが取れなくなったそうだ。
 そして、驚いたことに、彼は僕の身体を使っているにも関わらず、SPA-1が持つと思われる能力を使ったのだ……。
 要するに、彼がそうしようと思えば、僕の身体を乗っ取って、僕の姿のまま、凶悪な超異星人として世界を恐怖に陥れることも可能だと言うことなのだ。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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