鳳さんと天空橋さん(9)
文字数 1,670文字
駅ビル爆破事件に巻き込まれた僕と天空橋さんは、病院に運び込まれはしたが、擦り傷程度の軽傷とのことで、二人とも翌朝には退院させられていた。
天空橋さんは、僕が軽傷だと聞いて「そんなことは無い」と言い張っていたそうだが、係の人から「夢でも見ていたのだろう」と言われた上、事実、僕が退院しているのを知って、引き下がるしかなかったそうだ。
僕は学校を一日休んだだけで、直ぐに復帰した。それでも、穴守たちからは「さぼりやがって」と揶揄われない訳にはいかなかった。
そして鳳さんからは、さりげなく「天空橋さんと二人で、何していたのですか~」と嫌味を言われた。
その日も僕は、用事があると偽って、また一人で帰り、今度は駅の改札でボーっとある人を待っていた。当然、天空橋さんをだ。
そして、天空橋さんが来て改札を通ると、僕も追いかける様に改札を通っていく。また、僕はヘタレのストーカーに戻った。
電車の中では、中学の時の様に、同じ車両に乗りながら、近づきもせず、ちらりちらりと彼女の表情を窺っていた。本当、我ながら進歩のない奴だ。
そして僕たちの駅で降りる。
僕はそこで勇気をだし、改札を抜けた所で天空橋さんに声を掛けた。兎に角、異星人警備隊の秘密がどうなっているか、それだけは確かめない訳にはいかないのだ。
「天空橋さん!」
「あ、鈴木君……って、驚くと思った?」
「え?」
「知ってたよ。ずっと私を見てたの」
僕は例によって、顔が真っ赤に火照っている。
「て、天空橋さん、事故になんか遭って、大変だったね……」
「鈴木君もね。あの日、私たち、一緒のビルにいたんだね」
一緒のビルにいたことも覚えていない。どうやら、小島参謀の
「いや、そうだね。でも……、僕たち、大した怪我も無くて、お互い良かったよね。あ、僕、ちょっと用事があって、急いで帰らきゃいけないんだ。じゃ、ここで……」
本当は用事なんて何も無い。何か、もの凄く悲しかったのだ。
「あ、待って! 鈴木君……」
「ん?」
「あれは、夢じゃないよね。ありがとう。私の為に……」
「え? 覚えているの……」
「どうして? どうして、忘れることが出来るの?」
「それは……、小島さんの
「え? 『ちちんぷいぷい』って、あの鳳さんのお母さんが、おでこに手を当ててやったことの話し?」
「はぁ?」
「痛みを忘れる
小島参謀……、何が「彼女の記憶を消す
ん? ってことは……、例のエッチの約束も??
「鈴木君が冗談を言って励ましてくれたこと、決して忘れないからね」
あ、それについては、冗談ってことになっているのね……。
「で、鈴木君、用事はいいの?」
「ええ、何かもう、どうでも良くなりましたよ」
「じゃ、もう少し一緒に歩こうよ。鈴木君とは、ずっと友達だもの」
僕たち二人は暫く無言で歩いて行った。脇を小学生の子供たちが、燥ぎながら駆け抜けて行く。何かそんな景色も懐かしい。
「鈴木君が何か秘密の事していたり、鳳さんのお母さんが救助活動していたり、鈴木君たちには、私に言えない秘密があるみたい……」
しまった。そのことも天空橋さんは覚えているんだ!
「でも、いつか私にも話してくれる?」
「ああ、今は話せないけど。勿論だよ」
「その時は、あの時の約束のこと、一緒にしよう?」
「え? ええ???」
「あ、私の方が用事あったんだ! じゃ、帰るね!」
天空橋さんはそう言うと、もう、あと少しで分かれ道に来ると言うのに、僕を置いて一人で走り去ってしまったのだ。
ところで……、天空橋さんと一緒に帰ったことが原因だった訳では無いだろうが、「二股男なんかと、付き合えませ~ん」とか言われて、結局、僕は鳳さんからは振られる破目になってしまったのだ。でも、実は、それはストラーダ隊員が、僕の為にしてくれたことの様に、僕には思えてならなかった。
天空橋さんは、僕が軽傷だと聞いて「そんなことは無い」と言い張っていたそうだが、係の人から「夢でも見ていたのだろう」と言われた上、事実、僕が退院しているのを知って、引き下がるしかなかったそうだ。
僕は学校を一日休んだだけで、直ぐに復帰した。それでも、穴守たちからは「さぼりやがって」と揶揄われない訳にはいかなかった。
そして鳳さんからは、さりげなく「天空橋さんと二人で、何していたのですか~」と嫌味を言われた。
その日も僕は、用事があると偽って、また一人で帰り、今度は駅の改札でボーっとある人を待っていた。当然、天空橋さんをだ。
そして、天空橋さんが来て改札を通ると、僕も追いかける様に改札を通っていく。また、僕はヘタレのストーカーに戻った。
電車の中では、中学の時の様に、同じ車両に乗りながら、近づきもせず、ちらりちらりと彼女の表情を窺っていた。本当、我ながら進歩のない奴だ。
そして僕たちの駅で降りる。
僕はそこで勇気をだし、改札を抜けた所で天空橋さんに声を掛けた。兎に角、異星人警備隊の秘密がどうなっているか、それだけは確かめない訳にはいかないのだ。
「天空橋さん!」
「あ、鈴木君……って、驚くと思った?」
「え?」
「知ってたよ。ずっと私を見てたの」
僕は例によって、顔が真っ赤に火照っている。
「て、天空橋さん、事故になんか遭って、大変だったね……」
「鈴木君もね。あの日、私たち、一緒のビルにいたんだね」
一緒のビルにいたことも覚えていない。どうやら、小島参謀の
おまじない
は、昨日の彼女の記憶を、もう完全に削除してしまった様だ。「いや、そうだね。でも……、僕たち、大した怪我も無くて、お互い良かったよね。あ、僕、ちょっと用事があって、急いで帰らきゃいけないんだ。じゃ、ここで……」
本当は用事なんて何も無い。何か、もの凄く悲しかったのだ。
「あ、待って! 鈴木君……」
「ん?」
「あれは、夢じゃないよね。ありがとう。私の為に……」
「え? 覚えているの……」
「どうして? どうして、忘れることが出来るの?」
「それは……、小島さんの
おまじない
で」「え? 『ちちんぷいぷい』って、あの鳳さんのお母さんが、おでこに手を当ててやったことの話し?」
「はぁ?」
「痛みを忘れる
おまじない
って、鳳さんのお母さんもお茶目ね。でも、何か本当に痛みが納まった気がしたわ」小島参謀……、何が「彼女の記憶を消す
おまじない
」ですか?! 彼女、全部覚えているじゃないですか!!ん? ってことは……、例のエッチの約束も??
「鈴木君が冗談を言って励ましてくれたこと、決して忘れないからね」
あ、それについては、冗談ってことになっているのね……。
「で、鈴木君、用事はいいの?」
「ええ、何かもう、どうでも良くなりましたよ」
「じゃ、もう少し一緒に歩こうよ。鈴木君とは、ずっと友達だもの」
僕たち二人は暫く無言で歩いて行った。脇を小学生の子供たちが、燥ぎながら駆け抜けて行く。何かそんな景色も懐かしい。
「鈴木君が何か秘密の事していたり、鳳さんのお母さんが救助活動していたり、鈴木君たちには、私に言えない秘密があるみたい……」
しまった。そのことも天空橋さんは覚えているんだ!
「でも、いつか私にも話してくれる?」
「ああ、今は話せないけど。勿論だよ」
「その時は、あの時の約束のこと、一緒にしよう?」
「え? ええ???」
「あ、私の方が用事あったんだ! じゃ、帰るね!」
天空橋さんはそう言うと、もう、あと少しで分かれ道に来ると言うのに、僕を置いて一人で走り去ってしまったのだ。
ところで……、天空橋さんと一緒に帰ったことが原因だった訳では無いだろうが、「二股男なんかと、付き合えませ~ん」とか言われて、結局、僕は鳳さんからは振られる破目になってしまったのだ。でも、実は、それはストラーダ隊員が、僕の為にしてくれたことの様に、僕には思えてならなかった。