魔女(8)

文字数 1,729文字

「チョウ、転がっている石を拾え。それを投げて、敵を迎撃するぞ!」
 アルトロが、久し振りに僕に話し掛けてきた。これまでは、彼も会話を読まれることを警戒していたのかも知れない。だが、こうなっては、確かにアルトロの施している心のガードを、僕らは信頼するしかないだろう。
 僕は転がりながら、投げ易そうな石を拾い集めた。確かに、今の僕に出来ることはこの程度だ。でも、アルトロの力を借りて、思いっきり石をぶつけてやるからな。覚悟しろ!

 魔法使いのテロリストは、僕たちの隠れている森に、直ぐに侵入して来ずに、遠隔攻撃を仕掛けて炙りだそうとしている様だった。
 闇夜の中、森の外から光線砲とは違った光、そう、光った矢の様な物が幾つも飛んでくる。
 そうなると、敵の位置が把握出来ていない僕たちは、石礫を投げることも出来ないし、東門隊員の方も魔法攻撃を掛けることも出来ない。これは不利な状況だ。
 光の矢の攻撃は、東門隊員がバリアを張っていたのだろう、僕らの隠れた森に届く前に、見えない壁にぶつかって花火の様に破裂した。取り敢えず、第一波の攻撃は防ぐことが出来た。だが、僕たちが森にいることは、これで完全に相手に分かってしまった。

 敵はこの森に、魔法の遠隔攻撃を集中してくる! 僕がそう恐れた時だった。
 その光の攻防は、逆に僕たちの方に光明を齎したのだ。それによって、恐らく異星人警備隊に、僕たちの位置が特定できたのだと思う。僕の目の前に、SPA-1が瞬間移動させられてきたのだ。
 小島参謀が瞬間移動させてくれたのだろうか? だが、今それはどうでもいい。これで僕とアルトロは、足の大怪我から解放され、魔法使いテロリストの軍団から、東門隊員を守ることが可能になった!
 気絶は簡単。痛みを思い出すだけだ。そして白い世界を抜け、SPA-1の中へ……。

 敵の位置が、闇夜の中でも感じることが出来る。これもSPA-1の能力か?
 敵が呪文を唱える前に、僕は相手のいる位置まで高速移動し、硬化した拳で次々と殴り倒していく。頭を吹き飛ばさない様に、拳で相手の身体を突き破ったりしない様にと、ちょっとばかり手加減を加えながら……。
 こうして見ると、魔法の攻撃も所詮、拳銃などと同じ、狙って撃つ武器に過ぎない。ならば、引き金を引くだけで相手を倒せる銃の方が、呪文を唱える時間が必要な魔法よりも優れているのではないか? 僕はそう思う。
 だが、数では相手の方が多い。中には呪文を唱え終えた敵もおり、光の矢が何本か飛んでくる。
 その時、アルトロは信じられない行動を起こしていた。突然、彼は短い呪文を唱えたのだ。そして、それが終わると目前に光の壁が現れ、光の矢はその壁に弾かれ、元来た方向に撥ねかえって行く。返された光の矢は、敵の何人かに命中した様だ。彼らの苦痛の悲鳴が聞こえた。
 僕はアルトロが魔法を使えたことに少々驚きを感じている。だが、今それを気にしている余裕はない。相手は何か別の呪文で攻撃してくる様で、ブツブツと何か変な言葉を喋っていた。
 僕はその呪文が何かを知って、正直、気が遠くなりそうだった。それは今で言う召喚呪文。あいつらT-レックスを召喚しやがった。
 だが、そいつだって、SPA-1となった僕たちの敵じゃない。
 T-レックスの顔面に森の方から来た火の玉がぶつかって、恐竜の目と鼻を焼き始める。東門隊員の援護だ。SPA-1はその隙に、T-レックスの尻尾を左脇に抱え、そのまま恐竜を振り回して大きく投げ飛ばした。
 一転、アルトロは、T-レックスにはとどめを刺さず、魔法使いテロリストの方へと向き直った。恐竜が復活する前に、あいつら魔法使いテロリストの戦闘力をまず奪おうと言うのだ。
 そりゃ、何十匹もT-レックスを召喚されたんじゃ、SPA-1だって、流石にそれを全部駆除するのは、少しばかり面倒だものな。

 その後、一分もしないうちに、僕たちは妖怪異星人どもの制圧を完了した。
 アルトロはまた魔法を使い、魔法使いテロリストを全員眠らせることに成功。T-レックスの方は、変なオーパーツとならない様、風船の様に宙に浮き上がらせた状態にし、光線砲で焼き尽くし粉砕する。学術的には少々惜しい気もしたが……。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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