ナギイカダの反乱(3)

文字数 1,200文字

 だが、僕の疑問に答えたのは小島参謀だった。東門隊員は、説明する面倒が無くなったと言いたげに、無表情にライチジュースを一口飲んだ。
「まず常人では分からないわね。一生地面に生えたまま固着して動かないし、『擬態する』って言うより『植物になってしまった』って方が彼らのライフスタイルを表すのに近いと私は思うわ」
 東門さんは何も言わない。間違っていないのだろう。
「鈴木君、彼らの擬態って面白いのよ。彼ら、素っ裸で頭から鉢の中に身体突っ込んでいるイメージなの……」
「は、はぁ?」
「地面の中が口って言うか胃腸にあたる部分になって、小腸の柔毛を体外に伸ばして土の中の栄養分を吸収するのよ。そして胴体から生えている手とか足とかを地上に出すの。でね、彼らの細胞にはユーグレナみたいに植物細胞と同化した部分があって、光合成をすることも出来るのよ、呼吸は全身、特に手足で皮膚呼吸をしているのが普通みたいね。光があれば二酸化炭素を吸収するし、無ければ酸素を吸収する……」
 僕は裸の男性が、素っ裸で頭から逆立ちして植木鉢に頭を突っ込んでいる図を想像してしまった……。しかし、なんて格好だ!
「でね、でね。発情期になると、股間から性器を伸ばすの! グイっと! 勃起したおちんちんみたいに! そして先っぽから精子を含んだ甘い精液を発散して、受精するのよ。私もその精液、舐めてみたいわ!」
 しかし、この人は……。結構美人で良い処の出身の筈なんだけど、なんか、酷く言動が下品に聞こえるなぁ……。
「参謀は随分とお詳しいのですね……」
「あら私、植物学の権威の前で偉そうに……、恥ずかしいわ」
 そっちは恥ずかしいのかい!
「いえ、正直、私も驚いています」
 僕はついでに別の質問もしてみた。
「植物体異星人って、地球に沢山隠れ住んでいるのですか? そして、どうして監視の対象になっていなかったのですか?」
 これにも東門隊員ではなく、小島参謀が答える。
「数は不明ね。人間では恐らく彼らの擬態に気付くことは出来ないわ。だから、誰も数えたことがないの」
 成程……。
「『どうして監視の対象で無いか?』ってのは、基本彼らは人間に有益な生物だからよ」
「有益?」
 それには、説明したかったのだろう、東門隊員が後を引き継ぐ。
「ええ。彼らは空気中に浮遊する有害物質を吸収し無毒化してくれるの。あるいは有害とまでは言えないけど、温室効果ガスの吸収も彼らが大きく担っている」
「有毒ガス?」
「燃焼機関の排出する窒素酸化物、硫黄酸化物、メタン、エタンなどの炭化水素、新築の住居の壁紙なんかからも、アセトアルデヒドなどが発散されるんだけど、それらの吸収無害化も彼らはしてくれるわ」
 彼らと人類との関係は、僕とアルトロの様な相利共生関係にあるということか……。
「だから、東門隊員と鈴木隊員には、この事件は種族間の対立を生まない様に、出来る限り穏便に済ませて欲しいの。任せたわね」
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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