異星人の恋(8)

文字数 1,640文字

 僕とアルトロは平日の午後、まだ日のある時間ではあったが、意外と人気(ひとけ)の無い路地で、名前しか分からない女性が来るのを待っていた。リストに誤りが無ければ、彼女はここに現れ、犯人は彼女をここで襲う筈だ。

「しかし、アルトロ、もし仮に小島参謀が犯人でないとすると、どうやって彼女は、この時間と場所を知っていると言うんだ?」
「分からない。もしかすると、参謀は犯人をもう特定できているのかも知れない。そうならば、その犯人の心を読んだのだろう」
「だったら、なんで彼女はその犯人を捕まえないんだよ!」
「それは、異星人警備隊の仕事ではないからじゃないかな? それに、僕たちが現れたことで、方針を変えたのかも知れない……」

 僕は、小島参謀の能力を恐ろしいものだと思う。彼女は敵が特定出来れば、ある程度距離が離れていても、相手の心を読むことが出来る様なのだ。
「チョウ、私は常々彼女の作戦立案は完璧過ぎると思っている」
「読みが超人的だって言いたいのか?」
「違う。そうでは無い。チェスや将棋での読みってのは、お互い最善手を打つことを想定して考えるものなのだ。だから逆に、想定外の手や悪手を打たれたりすると、読みは大きく外れてしまう事になるんだ」
「はぁ」
「参謀の作戦は、最善手だろうが、悪手だろうが、相手の手を先読みして打っている。時に相手の最善手に全く無防備なことだってある。だが、そう言う時でも相手は最善手を打たず、参謀が想定した悪手を打ってくるんだ」
「つまり、相手の次の一手は全て掌中にあるってことか……」
「ああ、そうだ」

 予定の時刻に一人の女性がこっちに向かって歩いて来る。
 僕たちは当初、陰に隠れた状態で事件を目撃し、犯人が犯行に及ぶ寸前に逮捕、検挙する心算だった。
 だが、僕が動いたのか?
 アルトロが動いたのか?
 僕たちは、その少女の前に飛び出してしまっていた。
「き、君なのか……?」
 少女は僕たちに気付いた様だった。
「あなた……なの? あなたが、この事件の犯人だったと言うの?」
 歩いてきた少女は、この間の集団のリーダー格の女子高生であった。
 確かに彼女たちのメンバーであれば、次々殺されて行くのが同胞を宿した宿主であることなど直ぐに分かるし、ここに僕が現れれば、僕が犯人だと勘違いしても仕方の無いことだ。

 取り敢えず、アルトロの為にも、誤解を解く必要があると僕は考えた。
 まぁ、でも、どう話そうか?
 僕が何故ここにいるのかも、説明が難しいし、異星人警備隊のことも公開しちゃ拙いかも知れない。
 地球人には、異星人の存在は、まだまだ極秘事項だ。宿主の少女に異星人の話しをして良いのか、僕には分からない。
 確かに彼女は異星人を宿している。だが、それに気付いているのだろうか?
 それは間違いないと僕は思う。
 少女はあの時、起きていた。仮に宿主が行動に関与していなくとも、宿主も何が起こっていたかを目にしていただろう。だったら、事件の背景も少女は聞いているに違いない。
 しかし、そうは言っても、アルトロの種族の女性が、宿主にどこまで他の異星人の存在とか、異星人警備隊の話しをしていたのか、僕には全く分かってはいないのだ。

 そうしていると、後ろから人の近付く気配がし、振り返ると、別の女性が僕たちに駆け寄ってきていた。彼女も、あの時いたメンバーの一人だった様な気がする。でも彼女の方は、スナックの暗がりにいたので自信はないのだが……。
 僕が後ろを振り返った直ぐのことだった、僕の左胸に激痛が走る。実際、僕は何が起こったのか理解出来なかった。だが、槍の様な物の先端が僕の左胸の下の辺りから飛び出しているのが見える。恐らく僕は後ろから先端の尖った武器で左肺を、いや、心臓か? その辺りを刺されたのだ。

 SPA-1を呼ぶのだ!
 だが、僕の手は震え、携帯を取り出すことも出来ない。それに、もう、言葉も出せないに違いない。
 僕は膝から崩れていく……。
 僕の目には、(あと)から来た女性の姿が、ただぼやけて見えるだけだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み