鳳さんと天空橋さん(8)

文字数 1,155文字

 それから、どの位の時間が経ったのだろうか? 一分だったのか? 五分だったのか? 少なくとも三十分は経っている訳が無い。そんなには、僕の身体が持つ筈無いのだ。
 彼女の顔が光を浴びて明るく輝き、僕は、僕の背中を圧迫していた瓦礫が撤去されたことを理解した。
 僕は……、泣いているのか笑っているのか分からない天空橋さんの表情を、ただ見つめていた。そして、彼女が僕の身体の脇から、ずるずると引き擦りだされるのをぼーっと眺めていた。

 彼女が救出された後、四つん這いの体勢のまま固まって、全く動くことの出来ない僕を、小島参謀は猫の子を掴み上げる様に襟首をつかんで穴から引き上げる。そして、起き上がれず横になったままの僕に、彼女はしゃがみ込んで声を掛けてくれた。
「ごめんね。思ったより手間が掛かっちゃったのよ」
「いえ、助けて頂いただけでも、充分有難いです」
 参謀の言葉に、僕は素直に礼を言っていた。そう、天空橋さんを助けてくれただけで、もう何も言うことは無い。
 そう言えば、天空橋さんには、僕が爆弾処理するところや、鳳サーラさんの保護者である小島参謀が、瓦礫を軽々と持ち上げるところを見られてしまっている。まさか、口封じに殺すまではしないだろうが、異星人警備隊が彼女に何かをしないとも限らない。僕は、どうすればいいのだろうか?
「あら、心を読ますのね? でも安心しなさい。さっき、彼女の記憶を消す

を掛けておいたから。君が爆弾処理をしたところからね。彼女、病院のベッドで起きたら、これまでのことは全て忘れているわ」
 そうか……、でも良かった……。その程度で済んで。
 確かに、彼女との約束がフイになるのは、ちょっと惜しい気もしないではないが、僕は天空橋さんと両思いだったことが分かっただけでも、もう天にも登る心持ちだ。そう、それだけで十分じゃないか!

 気付くと、小島参謀は自分の携帯アプリを使って、川崎隊長からのメッセージを受け取っていた。
「はい、はい、鈴木隊員の救出は完了しました。了解です。直ちにそちらに向かいます」
 そして、簡単に状況を説明してくれる。
「まだ悪質異星人テロリストが暴れているの。報道制限やら何やら面倒なこともあるしね。大っぴらに闘えないのよ。SPA-1は例によってハングアップしているし。私もこれからあっちに向かわなくっちゃ。でも本当、ジュベニル星人のデランカンス派にも困ったものよね……」
 アルトロは、小島参謀の言葉を聞いて、立ち上がり、歩き出そうとする。
「おいアルトロ、いくら何でも無理だ。直ぐに倒れるか、意識を失っちまうよ」
「チョウ、それでいいんですよ」
 僕の予想通り、アルトロは足を縺れさせてその場に倒れてしまった。そして、その衝撃の為か、僕とアルトロは、数分間ばかり意識を失うのであった。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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