千羽鶴の贈り物(1)

文字数 1,580文字

 今年の横浜青嵐高校は、世界を席巻している疫病の為、幾つものイベントが中止になっていた。春の体育祭、そして秋の文化祭。運動部の合宿や対外試合も禁止されていたし、なんと、三年生の修学旅行までが取り止めになっている。
 こうなると、学校は単なる勉強の場でしかなく、僕たちは進学塾に通っている様に、黙々を日々の責務をこなし続けているしかなかった。
 ただ、そんな中でも青春している奴はいるもので、青嵐高校にも、そんな奴はちゃんと存在していたのだ。

 僕が放課後、いつもの様に机に突っ伏して休憩していた時のこと、教室の扉の所で糀谷が鳳さんに、何かお願いごとをしている様子だった。
 最近、鳳さんの異常なハイテンションについていけない男子も増えて、彼女のブームは一段落ついた様だったのだが、相変わらず糀谷光だけは、鳳サーラさんにメロメロな様で、金魚の糞みたいに彼女の後を追い回している。
 ところが、糀谷はそれが終わると、今度は天空橋さんと話し出した。ついに奴も振られて、天空橋さんに乗り換えたのか? もう僕には何も関係のないことだが、正直、なんだか心が痛む……。
 すると、次に何故か、僕と穴守の方に糀谷がやって来る。一体、何があると言うのだ?
「おい糀谷、何か用か?」
 穴守が糀谷に声を掛ける。別段、穴守と糀谷は仲が悪い訳では無いが、糀谷は僕に妙なライバル心を持っているらしい。
 そもそも、成績でクラス一を競うとか、何かの競技でお互い全国大会を目指すとか、そう言うハイレベルな所でライバル心ってんなら格好いいが、成績は中の下、ヘタレ男子同士で競い合っても、仕方が無いだろうと思うのだが……。
 しかし、糀谷は、今度は何の文句をつけに来たのだろうか?
「鈴木、穴守、頼みがある!」
 な、何だ? どうしたんだ一体?
「糀谷、頼むんだったら、土下座してお願いするってのが、筋ってもんじゃないのか?」
 穴守が笑いながら、糀谷に冗談でそう言った。だが、なんと、糀谷は床に直に正座し、本気で土下座してきたのだ。
「お、おい、マジに取るな。馬鹿、止めろよ!」
 流石に穴守も動揺し、僕と二人で彼を起して手をあげようとする。
「だったら、頼みを聞いてくれ!」
「何だよ、一体? 兎に角、話してみろよ!」
 僕はそう言うしかなかった。

 糀谷の話はこうだった。
 彼は、再来週の鳳さんの誕生日に、湾岸エリアに新しく出来たロープウェイに一緒に乗ろうと誘ったのだそうだ。糀谷としては、その時、必死に選んだプレゼントを渡して、一気に彼女の気を引こうと考えたらしい。
 ところが、その日、家で保護者(小島参謀だ)と一緒に食事会をするとのことで、彼女は彼の誘いを断ったのだと言う。
 そこを何とか日を改めてとか、糀谷も食い下がったのだが、結局、鳳さんには受け入れて貰えなかったらしい。
 仕方無く彼が諦めようとすると、今度は鳳さんの方から、誕生日の食事会に一緒にどうかと誘われたとの事らしいのだ。
 糀谷は「そこでプレゼントを渡せば、お母様の僕に対する印象も俄然アップする」と考え、大喜びをしたそうだが、糀谷だけと言う訳にも行かないので、以前、ティーパーティーに集まったメンバーが集まるなら、保護者も納得するだろうし、食事もそれなりの物を用意しやすいと言われた……とのことだ。
 で、天空橋さんは「鈴木君が嫌で無ければ」という条件でOKしてくれた。穴守は訊かなくてもOKだろうが、問題は僕なのだそうだ。
「鳳さんに振られ、天空橋さんにも愛想を尽かされた鈴木が、恥も気にせず、鳳さんの家の門を潜れるのだろうか? それだけが心配だ……」って、糀谷! 喧嘩売っとんのか!
「いいよ、行ってやるよ!」
 僕はそうやって、誰の策略か分からないが、糀谷の言葉に乗せられて、再来週の日曜日の午後六時、鳳さんの誕生パーティーに出席する破目になってしまったのだ。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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