別世界からの侵略「前編」(1)

文字数 1,621文字

 今考えると、「星が消えている」と言う数人のアマチュア天文家の報告が、僕たちが経験したことも無い、この超大規模侵略の最初の予兆であったのだろう。
 当初、「それは光の屈折に因る物だ」とか「暗黒物質が生成されたからだ」とか言われていたのだが、その時には、それが大事件の発端とまでは、まだ誰も知る由が無かったのだ。
 その後、調査により「星が消えている」現象の正体は、長さ千五百キロ、幅三百キロにも及ぶ、広大な空間の裂け目が出来ていた為であると言うことが判明した。加えて調査では、そこから人体に影響が及ばない程度ではあったが、少量の放射能が漏れ出していることも分かったのである。
 実のところ、この裂け目は地球人類にとって非常に危険な存在であった。だが、これが危険である理由は、裂け目から漏れ出す放射能によるものではない。危険の真の正体は、その裂け目から侵入してきた、膨大な数の宇宙船団の方だったのだ。
 この異時空の大宇宙船団に対し、世界政府各国は、それぞれ裂け目からの侵入理由を問う通信を行った。だが、その解答は、皆こう言う内容のものであったのだ。
「この時空の星は全て、大悪魔皇帝様が傘下に治める。お前たちも抵抗せず、皇帝様に全面降伏するが良い」

 さて、この侵攻は、確かに地球規模の大事件であったのだが、異星人警備隊は、あくまで地球内に隠れ住む、凶悪な異星人の取り締まりが目的の組織である。だから「自分たちでは、どうすることも出来ない」と言うのが僕たちの正直な感想であった。
 そんな中、そのニュースを聞きながら、厳しい表情を浮かべている人物が、我が作戦室の中に一人だけ存在していた。シンディ小島作戦参謀である。

 僕はその時、いつもの様に作戦室の片隅に黙って座っていたのだが、その僕の肩をストラーダ隊員が小突いた。どうやら「ついて来い」と言う彼女の合図の様である。
 僕がストラーダ隊員の後ろについて歩いて行くと、彼女が何に僕を誘ったのか僕にも分かった。その少し前方を、小島参謀が歩いている。ストラーダ隊員は、小島参謀が何をしようとしているかを調べる為、彼女の後をつけていたのだ。

 これまで僕たちは、小島参謀の不可思議な行動の理由が、ずっと理解できなかった。だが、今回の大悪魔皇帝の侵略で、ストラーダ隊員は一つの仮説を立てていたらしいのだ。それは、彼女にも、信じたくないことではあったのだが……。
 その仮説とは、小島参謀は異星人テロリストなどではなく、大悪魔皇帝の先兵で、人間の情報収集と異星人警備隊の混乱を目的として、異星人警備隊に潜入している侵略者だったのではないかと言うことであった。

 暫く廊下を歩いて行って小島参謀が入っていった部屋、それは僕の様な通常の隊員では入ることが許されない、科学班専用の部屋であった。ただ、僕はこの部屋に一度だけ入ったことがある。そして、ストラーダ隊員もこの部屋に入る資格を有している筈であった。
 僕たちは、さっと壁に隠れ、聞き耳を立てて部屋の中の様子を伺う。
「ここは……?」
「そうよ、ここはSPA-1の眠る場所。あの着ぐるみスーツの中身、超異星人の遺体が保存されている部屋よ」
 僕の小声の質問に、ストラーダ隊員も小声で答える。今彼女は、いつもの変な日本語を使って来ない。彼女も相当緊張しているのに違いなかった。

 ストラーダ隊員は、セーフティロックを解除して中に入るか? ここで中の様子を探るか? この判断にさんざ迷い、結局、彼女は部屋に入ることを決断した。信頼する自分の保護者、シンディ小島参謀に、彼女の怪しい行動の全てを説明して貰う為に。自分の身内とも言うべき人の疑念を解く為に……。
 しかし、彼女はセーフティロックを解除することは出来なかった。彼女が認証を行う前に、ドアが内側から開かれたのだ。
 そして、部屋の中から小島参謀の声が聞こえてくる。
「入っていらっしゃい。サーラちゃん、チョウ君、そして、アルトロ君……」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み