天使降臨(1)

文字数 1,133文字

 それは、地球人や異星人とは全く異なる生物であった。
 確かに見た目は、人間と殆ど変わりはないのだが、精神構造が大きく異なっているとしか僕には思えなかった。だが、その見た目が、人間と少し異なっていたにも関わらず、その姿は人間そのものよりも、むしろ人間には好意的に捉えられた様であった。
 彼女(そう、多くの地球人と同じ様に、僕もそれを女性と認識している……)の容姿は、美しい癖の無い銀髪と、海の様に深い蒼の瞳、背に白い水鳥の羽を持つ天使そのものだった。そして、彼女は絹に似た素材で出来たキトンに、同様の素材のヒマティオンを纏い、その姿は将に、ギリシャ神話にある、勝利の女神ニケを思わせるものがあった。

 彼女が始めて姿を見せたのは、東京の一等地である新宿交差点の中央であった。彼女は、文字通りそこに忽然と現れたのである。
 彼女はモナリザを思わせる細やかな笑みを口元に湛え、辺りを物珍しそうに見回したと言う。
 通常、その様な、信じ難い現れ方をする者に対し、多くの人間は恐怖を感じ、すぐさま排除しようと行動するものであるが、彼女の見た目のせいであろうか、その付近にいた人間は誰一人として逃げようとはせず、彼女を怪物として攻撃する者もいなかった。
 彼らは逆に、旅行者を迎える者として、羽の生えた彼女に、地球に現れた目的などを聞きだそうと話し掛けたのだ。それは日本語であったり、英語であったりした。だが、彼女には全く意味が通じていない様で、ニッコリと微笑んだまま、それらの質問には何も答えようとはしなかった。
 歩いて行こうとする彼女を引き留めようと、通行人の一人が彼女の手首を掴んだ。だが、その通行人は引き留めるどころか、手首を掴んだまま、ショックで膝から崩れ落ちていった。彼女の身体は強い電気を帯びていたのだ。
 手首を掴んだ通行人は、幸いなことに一命だけは取り留めたらしいが、心臓の弱い人間であれば、感電死したかも知れない。

 その事件が起こった時、僕はまだ学校にいて、午後の授業を受けている真っ最中であった。当然、ニュースを見ることも出来ないし、校則に従い、授業中は携帯の電源を切っていた。この為、僕はこの不思議な話をリアルタイムで見る事が出来なかったのだ。それは僕に限らず、鳳さんも同じだったと思う。
 授業のコマが終り、携帯を見たクラスの連中は、このニュースに、一斉に驚きの声を上げた。

「おい、新宿の交差点に、天使が舞い降りたんだってよ」
「すっげえ美少女らしいぜ! 俺、今から見に行こうかなぁ」
 穴守たちも、多くの人間と同様に、その姿から何も考えず、彼女を天使だと思っていたみたいだが、僕、そして恐らく鳳さんも、その正体を別の物と考えていた……。
 こいつ、どこの異星人なんだ?
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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