灰色の疑惑(9)

文字数 1,409文字

 スーツに身を包んだ小島作戦参謀は、腕を組んだまま、下の階段からゆっくりと上がってくる。その姿を見た僕たちは、正直、異星人テロリスト以上にパニックになりそうだった。
「て、てめぇ、何者だ! 動くんじゃねぇ! この女の命が惜しくないのか?」
 テロリストは身体の向きを小島参謀の方に少しずらして、彼女にストラーダ隊員の姿が良く見える様にし、ナイフを首に押し付けて脅しを掛ける。
「勿論、惜しいわよ。だって私の大切な娘だもの……」
「だったら手を出すな! そこで黙って見ていろ!」
「そうは行かないわ。立場ってものがあるから。ついでに言っておくけど、あなたの仲間、全員下で逮捕されているわよ。あなたも痛い思いをする前に、人質を解放して投降した方がいいと思うけど、どうかしら?」
「うるさい!」
「あ、そう?」
 小島参謀はそう言うと、テロリストの警告も全く無視し、鳳さんを人質にしている異星人の方へと無造作に近づいていく。僕は最悪の事態まで想定した。だが、彼はナイフを持った手を下に下げ、抵抗を一切しようとはしなかったのだ。
 充分にテロリストに近づくと、小島参謀は鳳さんの首を抱えていた異星人テロリストの手首を掴み、彼女の首からその腕を引き剥がした。
 解放された鳳さんは、小島参謀の胸に抱きつき、小島参謀も、自分の胸に顔を埋める彼女の頭を、愛おしそうに抱き締めた。

 異星人テロリストが目の前にいるにも関わらず、小島参謀は、少しの時間、鳳さんを胸に抱えていた。そして暫くしたのち、彼女の肩を抱くようにし、テロリストに背を向けて、元来た階段から降りようと歩き出す。
 階段を降りる直前、小島参謀は振り返り、異星人テロリストに言葉をかけた。
「重かったでしょう? 催眠術であなたの両足とナイフを持った手を重くして、動けない様にしていたのよ」
 それと、呆然と成り行きを見ていた僕と隊長にも指示を出す。
「さ、催眠術はもう直ぐ解けるから、隊長とチョウ君は彼の確保をお願いね。私はサーラちゃんを連れて、作戦室に戻るから……」
 僕たちはそれを聞き、我にかえって異星人テロリストの逮捕をしようと彼に飛び掛かっていった。だが、彼は呆然としたままで、抵抗もせずに川崎隊長に逮捕されたのだった……。

 さて、逮捕の後、彼らに対する取り調べが行われたのだが、異星人テロリストは、誰かのリークで逃げ出したのではなく、僕たちの動きを直前に感づいて給湯室に隠れたとのことだった。これは、ストラーダ隊員の嘘発見器を着けての尋問だったので、まず間違いないだろう。
 それと同時に、(これはストラーダ隊員が内緒で教えてくれたのだが……)彼らの組織と、港町隊員との間には、繋がりがあったと言う証拠は、一つも見つからなかったとのことである。
 これで、とりあえず港町隊員と小島参謀への疑念は晴れたと言うことになるのだろうか?
 いや、今回の事件と二人が無関係だったと言うだけで、彼らへの疑念が完全に晴れた訳ではない。それは灰色のまま、燻り続けているのだ。
 ま、確かに、参謀たちに対する疑念は残ってはいたが、鳳さんが無事だったのは、僕は取り敢えず嬉しかったし、正直ほっとしている。
 そして僕自身は、二人がハッキリと異星人テロリストと決まるまでは、港町隊員や小島参謀を、ずっと一緒に戦っていける、信頼できる仲間だと信じることにしたのだ。
 理由は、そうしたかったから……、だけだったのだけれど……。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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