異星人の恋(6)

文字数 1,407文字

 その日、僕が家に帰り着いたのは、夜十時を回っていた頃だった。既に両親は家に帰っていて、「こんなに遅くまで、どこにいたのか?」と僕は親に問い詰められるかと思っていたのだが、「お友達の家に遅くまでいたら迷惑よ」と母に注意されるだけで、僕は早々にお説教から解放された。
 小島参謀が、鳳さん家におり、少し遅くなると電話しておいてくれたとのことらしい。
 少し疲れていた僕は、部屋に入って直ぐ寝間着に着替え、風呂にも入らずにベッドへと潜り込んだ。

 しかし、流石にアルトロだ。
 あの様な場面でも、冷静に小島参謀の異星人能力を考慮し、無意味な格闘もせず、問題を解決に導いてしまうなんて。
「いやチョウ、そんなんじゃない」
「謙遜するなよ」
「彼女らが犯罪者であるにも関わらず、私は同胞を殺せなかっただけなんだ。異星人警備隊員としては完全に失格だよ。だから小島参謀も『人間の大切な仲間として認められた時』と言ったんだ。『あんな行動を取る様では認められない』と参謀は言っているんだ」
「でも、僕は良かったと思ってるよ。アルトロの仲間と闘わなくて済んで」
「済まない……」
「それにしても彼女、結構可愛かったな!」
「い、いや、そんなことは無い!」
「何だ? アルトロ、人間の女子高生に惚れたのか?」
「そ、そんな訳ある筈ないだろう! いや、正直に言おう。私は人間ではなく、彼女の頭の中の同胞に異性として興味を持った」
「え、あの間に性交渉をしてたのか?」
「ば、馬鹿言え! 興味を持っただけだ。性交渉は、お互いの精神的な同意が無ければ成り立たない!」
「そうか、じゃあ、また合わないといけないな。いくら精神的な繋がりと言っても、どこにいるか分からない様な状態では、デートにもならないだろう?」
「そ、それはそうだが……」
「きっと、彼女も会いたがっているさ。それなら、東京湾未来線に乗ってれば、また会えるんじゃないか?」
「彼女の宿主が、東京湾未来線を通学に使ってるとは限らないだろう? 今回は特別だろうから……」

 それにしても、アルトロがそんなこと考えていたなんて、僕には正直驚きの出来事だ。彼はもっと、そんなことは超越した異星人だとばかり思っていた。
「異星人と言っても色々なのだなぁ」と僕は思う。
 アルトロは、自分と同種にのみ恋愛感情を抱き、他の宇宙人には全く興味がない様だし、港町隊員は、他種の東門隊員に気がある様だ。そう言う意味では、僕も天空橋さんや鳳さんを素敵だと思うけど、魔依(まえ)さんの夢を見たりもするので、港町隊員寄りなのだろうか?
 それぞれの種族が異なった恋愛意識、いや、もっと広く文化って考えても良いだろう。そう言う物を持っていて、それぞれ文化(それ)を尊重しなから生きてるんだ。それを他者が否定することは恐らく出来はしないし、してはいけないのだろう。
 そう言えば、大師隊員は老境に至っているからか、男女間の関係は感情的な問題と言うより、生物的な子孫を残すと言う本能と捉えている様だった。だが、同種でも川崎隊長は異なる意見を持っているかも知れない。
 僕は「異星人は……」とか、「何々星人は……」だとか、そう言う考え方をずっとしてきたが、異星人と交流するには、まず彼らの文化的背景を理解した上で、個人として彼らを理解することが必要なのじゃないかと思うのだ。
 異星人テロリストとも、そうすることでお互い理解しあえたら、僕たちの役目は終わるのだろうな……。多分。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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