天使降臨(6)

文字数 1,355文字

 僕が意識を取り戻したのは、ウミウシ1号の後部座席だった。
 運転席には、既に川崎隊長が座って発車する寸前だ。僕の隣には小島参謀が座り、僕の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「どう? 気が付いた?」
「あ、大丈夫です……」
「何やってんだよ、敵を目の前に、突然、気絶なんかしやがって」
 港町隊員は、通路の向う側の座席に一人で座っている。
「すみません。あいつ、急にこっちに向かって来たんで、怖くなっちゃって……」
「ほんと、しょうがねぇなぁ~」
 僕は恥ずかしそうに頭を掻いた。ま、正直、「しょうがねぇ」と言われても仕方ない。さっきの闘いは、完全に僕たちの負けだった。
 ヌディブランコ1号は、夕暮れの銀座から一路本部に向かって発進した。

 小島参謀は、次に港町隊員の方に向かって、彼の作業の首尾を確認する。
「で、港町隊員の方はどうだったの?」
「ばっちりですよ。もう、ストラーダ隊員が解析を始めてるんじゃないですか? やっこさんが消えた方のビデオは、隊長が撮っている筈ですよ」
「OKよ。さ、次は逃げられにない様にしたいわね」
 小島参謀のイメージでは、相手に逃げられない様な手立てを考えて、SPA-1で今度こそ倒そうと言うのだろう。だが、SPA-1で、あの強敵に勝てるのだろうか? 僕はヨーコを倒すことが出来るのだろうか?
 恐らく、光線砲を撃つタイミングはないだろう。ヨーコを倒すには、別の技を使わなくちゃ駄目だ。でも、フィニッシュに持ってくことが出来るのだろうか? 殴り合いでは、彼女の方が一枚も二枚も上なのだ。
「チョウ、今は休もう。生気もだいぶ消費している。作戦は後で考えればいい」
 確かに疲れた。アルトロの言う通り、今は休むべきだろう。

 結局、銀座では、(僕たちはヨーコと呼んだ)謎の少女を逮捕することは出来ず、依然、彼女の行方は不明のままであった。
 この時の政府側の被害として、軍兵5名が倒されたが、命に別状はないとのことである。
 それでも、彼らに少女化が始まっていた為、既に少女化していた民間人8名と同様に、異星人警備隊病院に緊急入院と言う名目で隔離されることになっている。
 港町隊員の伝送した情報と、川崎隊長の撮ったビデオの解析の結果は、あまり芳しいものでは無かった。ヨーコは普通に歩いてきて現れただけであったし、ビデオでは、掠れる様に透けていき、最後に姿が見えなくなっていただけであった。
 一方、科学班のもう一つの作業は、比較的順調に進んでいるとのことだ。
 少女化現象は、脳の下垂体前葉の異常な炎症が原因とみられ、そこから特殊なホルモンが分泌される為に起こっているものとのことで、比較的近い内に消炎に効果のある薬品が開発出来そうだとのことであった。
 これには、東門隊員の本草学が大いに役立って、類似の有毒植物の中毒症例から、CTで検体の下垂体を検査したところ、この異常が確認されたのだと僕は聞いている。

 その日の夜、どうしても僕は寝付くことが出来ず、深夜に宿直室のベッドから這い出し、休憩室へとコーヒーを飲みに行った。
 僕が休憩室に行ってみると、そこには僕同様に寝付けなかったのか、ベンチに座って足を組み、ブラッドオレンジの缶ジュースを飲んでいる女性の姿がある。彼女も僕に気付いたのか、僕の顔を見て笑顔をみせてくれた。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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