別世界からの侵略「後編」(6)

文字数 1,985文字

 僕は小島参謀から、大悪魔皇帝の能力の秘密の説明を受け取った。
「でね、私急用があるの。仕方ないとは思ったんだけど、(じょう)って物があるでしょう? よく他時空への過干渉だって言われるんだけど、止められないのよね」
 はぁ、しかし、相変わらず訳の分かんない人だなぁ……。僕には何言ってんのかさっぱりだ。
「でね、悪いんだけど、あの大悪魔皇帝、倒しておいてくんない? じゃ、宜しくね」
 そう言うと、既に幻の様だった小島参謀の姿は、霧でも晴れる様にさっと消えて行った。
 って、消えるか? ここで!

 僕は部屋に、大悪魔皇帝と二人きりで取り残された。
「無礼者め。朕を誰と心得る?」
「大悪魔皇帝って奴だろう?」
「それが分かって来るとは、万死に値するな。良い、朕自ら殺してやる。名誉と思って感謝するのだな」
 殺されて感謝する馬鹿がいるか!
 だが、相手は位相交換と言う変な悪魔能力を持っているらしい。こっちが相手を殺そうとすると、相手が死ぬ寸前に位相交換される。相手に殺されれば良いかと言うと、そうでもなく、相手は位相交換しないで僕が死ぬのを放っておく。ちょっと厄介だ。
「アルトロ、どうしたら良いと思う?」
「アルトロ君なら、チョウ君の身体に戻って貰っているよ。長丁場なんで、彼の憑依時間じゃ持たなかったんだ」
 あ、そう言えば、もうとっくに僕の肉体から離れていられる時間を超えている。超異星人の能力で、僕だけが残される形になっていたのか……。
 と言うことは、僕と心の中で話していたのは、小島参謀のお兄さんか。

「別に難しい問題ではないさ。あの大悪魔皇帝を、先程の悪魔能力を封じる結界の部屋に引きずり込めばいい。だが、今、結界の機能は停止しているようだね……。あるいは、大悪魔の能力を奪うアイテムを身に着けさせるとか、だが、今は手持ちがないな……。ウ~ン、あの手しか無いかな……?」
「え?」
「チョウ君、あいつを今倒した方がいいと思うかい?」
「当然でしょう!」
「命に替えても?」
「勿論!」
「あいつ、自分が死んだら誰かに替われるみたいだけど、見える範囲内だけらしいんだ。だったら、替わる相手も同時に死んじゃったら、もう、どうしようもないよね……」
「え? ええ??」
 僕は何となく、この人の言っていることが理解できた。要するにあいつを殺すと同時に、僕も死んでしまえば、あいつは逃れる術がないと言っているのだ。
 僕は考える……。
 もし、ここで大悪魔皇帝を討ち損じたら、もう小島参謀はいないんだ……。
 参謀は僕に伝言をくれたが、何故か僕の心の中には、彼女は大悪魔皇帝に殺されたと言うイメージが残っている。あれはきっと実際にあったことに違いない。彼女は死んでも伝言だけは僕に残してくれたのだ……。
 確かに、裂け目は閉じた。だが、大悪魔皇帝を倒さねば、再び裂け目を開いて攻めて来ないとも限らない。今こいつを逃したら、僕たちの世界が、何時またこいつに蹂躙されるか分からない。ならば、大悪魔皇帝を倒すのは、僕が今やるしか無いじゃないか!
 僕は命に替えても、この時空を、地球を、いや、天空橋さんを守りたい。ただ、それだけだった。
「今、ここで奴を倒しましょう!」
「分かった……。では、超爆発でも起こそうか? いや、もっと良い手がある……」
 僕たちが検討をしているのが待ちきれないのか、大悪魔皇帝が苛々して文句を言って来る。だが、もう少しだ、待ってろ!!
「チョウ君、普通宇宙船では水は貴重品なんだよ。だが、流石に皇帝の旗艦だけのことはある。なんと、船の上部に水の巨大なタンクがあって、船内至る所に配水管が張り巡らせているみたいなんだ。だから、天井の上水道配管を破れば、この部屋を水浸しに出来る」
「ん?」
「ここで僕の呪文『極光乱舞』を唱えれば、その水は一気に凍り、極寒の宇宙空間では永遠に溶けることはない。大悪魔皇帝と僕たちは、そこで氷の中に封印されるんだ。どうだい? チョウ君、それでOKかい?」
 勿論、僕に異論はない。だが……。
「でも、太陽に近づいたり、敵の大悪魔が救出する危険性があるのではないですか?」
「いや、大丈夫だ。条件発動呪文で氷が溶けかけたら、再度『極光乱舞』が掛かる様に設定しておけばいい。そうしておけば、僕と同等以上の呪文使いでなければ、術を解いて氷を溶かすことなど出来はしない」
 それなら、もう僕に不満など無い!
 さようなら、父さん。さようなら、母さん。さようなら、天空橋さん。でも、きっと天空橋さんたちは、僕がここで死んだをことに気が付かないだろう。僕の身体にはアルトロが生き続けるから。
 でも、アルトロは身体を自由に動かせないに違いない。僕を失った彼は、殆ど植物人間の様にして、僕の身体の中で生きて行くのだろう。
 しかし、それでも構わない。
 向うでサーベルを持って待っている大悪魔野郎に一泡吹かしてやる!
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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