千羽鶴の贈り物(4)

文字数 1,254文字

 僕は自分の部屋で一人、黙々と折り鶴を折っている。
 正直、折り紙と言うものを、僕は甘く見ていた。三時間程度集中して折れば、五百羽位、一晩で簡単に折れると思っていたのだ。
 だが、仮に一羽折るのに三分掛かるとしよう。すると、五百羽折るには千五百分掛かることになる。時間で現すと、二十五時間だ。
 今日が水曜日なので、再来週の鳳さんの誕生日まで今日を入れて十一日、当日を含めても十二日だ。
 週末の土日が二回含まれているとは言え、風呂も入るだろうし、宿題のある日もあれば、異星人警備隊の集まりや作戦行動だって無い訳では無い。それに先程のは机上の計算で、ぶっ通しで休み無しに折り紙を折り続けられる筈はない。トイレにだって行くし、休憩もするだろう。そう考えると、平日三十五羽、週末で百十羽として、今日から金曜日までは三時間程度、土日合わせて五時間は見ておかないと不可能な数字だ。
 鳳さんは「千羽無くても良い」と言ったかも知れないが、誕生日のプレゼントが「六百羽鶴です」ってのは、少々しまらないだろう。
 しかし、僕はまだいい。授業が終わったら、即帰って、折り紙を開始すればいいんだ。だが、天空橋さんはどうするのだ? 彼女は茶道部と言う部活動もあるんだ。もう、これで宿題とか片付けていたら、寝る間も無いじゃないか……。
 自分は二百五十羽で、残りを天空橋さんに折って貰おうと思っていた自分の甘さに、本当に腹が立つ。それと同時に、僕や天空橋さんを鳳さんの誕生会に巻き込んだ糀谷にも、思いっきり腹が立つ、そして、彼女が悪くないのは分かっているのだが、こんなものを要求してきた鳳さんにも少々ムカついている。

 今週一杯、家に父がいないのが唯一の救いだ。折り紙を折るのに集中だけは出来る。父が出張から帰るのは、来週の水曜日だと言っていた。その間は母も残業し、帰りはいつもより遅くなるのに違いない。

 僕の家は極々普通の家だ。
 アパートを少しましにした、三階建ての二階、3LDKの良くある振り分け式タイプの間取りのマンションが僕の家。
 父は普通の真面目な会社員。特に頑固者であるとか、熱血であるとか、酒乱であるとか、そんな特別なことは一切ない。中肉中背、メガネに七三分けの普通の容姿に良くある顔立ちだ。
 最近、仕事が忙しい様で、出張前から僕とは数日ほど顔を合わせていない。
 母は普通の事務系OL。共働きの理由は、結婚と同時に家庭に入らなかったので、何となく、そのまま仕事を続けていたからだそうだ。
 美人と言う程ではないが、不細工と言う訳でも無い。バリバリのキャリアウーマンと言う程でもなく、それなりに家事もするし、ちゃんと僕のお弁当も忘れずに作ってくれる。
「こんな何の変哲もない普通の家庭の、少々ヘタレな高校生の僕が、なんで異星人警備隊なんて仕事をやっているだろう?」って、いつも僕は思ってしまう。
 ま、アルトロのお蔭と言うか、アルトロのせいと言うか、彼がいなければ僕は何もやっていなかったし、何も出来はしなかったのは間違いないだろうが……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み