別世界からの侵略「前編」(6) 

文字数 2,154文字

「大体分かりました。ではお兄さん、その訳の分からない理由を、私たちにお聞かせ頂けますね」
 アルトロの質問に、超異星人は含み笑いを漏らしてから、素っ気なくこう言い放った。
「それは言えない。言うと変わってしまう可能性があるからね」

 何とも言えない重い雰囲気に、僕はこう場を取り繕うしかなかった。
「でも、取り敢えず、小島参謀は大悪魔ではあっても、僕たちの味方をしてくれる様だし、これまで通り、SPA-1が協力してくれれば、決して負けるとは思えないですよね」
 だが、超異星人は、またも予想外の答えを返してくる。
「いや、チョウ君、僕は闘わないよ。ここは君たちの時空だ。僕が闘う義理なんて無いさ。君たちだけで戦いたまえ」
「え? ええ???」
 超異星人が闘わない? なんで? 小島さんも「また変な事言い出した」って顔で、額に手を当てて項垂れている。
「僕はこのビーカーで寝ているよ。意識も無しにね。ま、身体くらいは勝手に使っても構わないよ。そう簡単に壊れるものじゃないから……」
 彼はそう言うと、再び瞬間移動して、巨大ビーカーにしか見えない水槽の中へと戻って行った。ま、要するに、今まで通り、僕たちが憑依して戦えと言うことか。それでいいよな、アルトロ!

 大師隊員が小島参謀に意見を求める。
「うん、確かに小島参謀が味方で良かったよ。で、どういう作戦でいくんだい? もうイメージは出来ているんだろう?」
「勿論よ。でも、ミッション開始前に、全員に確認しておきたいことがあるの」
 皆、言葉に出さずに頷く。
「今度の作戦で、私たちの中にも死ぬメンバーが出てくるわ。それでも、大悪魔皇帝と戦うってことでいいかしら?」
 皆、先程同様に頷く。そして川崎隊長が結論を参謀に伝えた。
「我々は戦わなくとも走狗煮らる訳です。戦わない訳ないじゃありませんか。
 異星人警備隊、川崎以下六名、参謀指示に従い、大悪魔皇帝と戦います」
「了解です。では、作戦内容を伝えます」
 僕は思わず唾を飲み込む。
「ミッションは3段階に別れます。まず、あの時空の裂け目を閉じます。あれを閉じることで、相手戦力の大半をこちらの時空に入れさせない効果があります。ですが、それ以上に、あの裂け目は大きすぎて危険なのです。すぐさま閉じねばなりません」
 大きすぎて危険?
「時空はシャボン玉の様なものです。シャボン玉が針で穴を開けたりすると破裂する様に、時空の裂け目も、同様の危険があります。勿論、シャボン玉よりは丈夫ですが、それでも、あの大きさのまま、裂け目を大きく開けておく訳には行きません」
 しかし、大悪魔皇帝は時空が破裂するなんて、考えなかったのかなぁ?
「チョウ君、大悪魔皇帝は、恐らくその危険を知ってて裂け目を開けてると思うわ。彼にとって、時空のひとつなど、破裂しても左程惜しいものでは無いのでしょうね」
 うぇっ!
「続けます……。裂け目を閉じた後、大悪魔皇帝の暗殺を決行します。彼を生かしておけば、再び裂け目を開いて攻めてくる危険がありますから……。そして、それが完了後、当該時空内の大悪魔船団を殲滅します。作戦は以上となりますが、何か質問は?」
「具体的な作戦内容は?」
「これからお話します。まず私たちは時空の裂け目に到達する必要があります。その宇宙船ですが、川崎隊長と大師隊員が地球にきた時の、星間航行宇宙船をお貸し頂きたいです。芦ノ湖に隠してありますよね」
「ちぇ、バレバレか!」
 大師隊員の声が聞こえる。
「そこで裂け目の向う側に行って、裂け目を開いている装置、あの大きさです、恐らく大悪魔個人の力ではなく機械でこじ開けている筈ですので、それを爆撃して破壊します。
 すると、時空の自己修復によって裂け目が閉じていきますので、私たちの宇宙船は裂け目が閉じる前に、時空内に戻らなければなりません。但し、私とチョウ君は時空外に残り、大悪魔皇帝を暗殺します。この時の具体的な手順は、その場で随時検討とさせてください。
 私たちが大悪魔皇帝を暗殺するまでの間、時空内に戻った私たちの宇宙船は、敵船団に攻撃を受ける危険性があります。ですから、この間は敵を無視して、極力回避行動を取っていてください。
 そして、私とチョウ君が合流後に、SPA-1と宇宙船の全火器を使って敵船団を殲滅します。川崎隊長、その位の攻撃力は充分ありますよね? 地球を侵略しようって言うのですから……」
 川崎慶究隊長は、胸ポケットに手を入れ、銃を抜こうとした。だが、それを父である大師隊員に止められている。
「慶究、ここはもう呉越同州だよ。それに、この人と闘っても、僕たちに勝ち目はないさ」
 それを見て、それまで黙っていた港町隊員が大笑いを始めた。
「はっはっはっ、隊長様が侵略者のスパイだったとはね、とんだ食わせ物だ!」
「あら、港町隊員、あなただって、他の星から指名手配で逃げてきた、元異星人テロリストでしょう? 人のことは言えないんじゃない?」
 小島参謀の言葉に、港町隊員の笑いが止まり表情が強張った。彼も胸元の銃に手が行きそうになったが、何とか自制した様だった。
「でも、過去なんて、どうでもいいの。いい? 殺されるか、家畜になる未来が嫌だったら、死ぬ気で仲間を信じて闘いなさい。私たちは異星人警備隊なのよ。いいわね!」
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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