小島参謀の秘密(3)

文字数 1,617文字

 次の日の放課後、彼女の要求通り、僕は体育館の裏へと一人で訪れた。そこには、既に鳳サーラさんが壁に寄り掛かって僕を待っていた。

「どうしたんです? 鳳さん? 何か用ですか?」
 僕は鳳サーラさん、即ちストラーダ・インドゥストリアーレ隊員に声を掛けた。だが、聞こえている筈なのに、彼女は俯いたまま、僕の方に直ぐには顔を向けようとしなかった。
 そして、不思議そうに見る僕を、横目で眺め、逆に僕に質問をしてきたのだ。
「チョウ君、あなた、何者ですか? 本当のこと、言ってくださ~い」
「何ですか? 急に」
「あなた、普通の人間である筈ありませ~ん。あたくし、騙されませ~ん。あなた、何、企んでいるのですか~?」
「何言っているんですか? 昨日、証明されたでしょう? 僕は正真正銘、只の地球人ですよ」
「あたくし、チョウ君のこと、ともだち思っていました。それは、チョウ君が人間であっても、異星人であっても変わりませ~ん。でも、チョウ君、あたくし騙そうとしました。異星人警備隊全員を騙そうとしました。チョウ君、お願いです、本当のこと、言ってくださ~い。あなた、異星人テロリストですか? あるいは、侵略者の手先ですか?」
 僕が何か言う前に、アルトロがそれに答えていた。
「だったら鳳さんも、その変な喋り方止めるんですね。そうやって、変なイタリア人の振りをしている時点で、既に私たちを騙しているのではないですか?」
 鳳さんはそれを聞いて、上を向いて自虐的に笑っていた。
「何だ、知ってたんだ。そうよ、あたしは小さい頃からずっと日本に住んでいたから、イタリア語より日本語の方が得意な位なの。でも、どうして分かったの?」
「鳳さんはアクセントこそ、最終の一つ前の音節に長音アクセントを付けてイタリア風にしているけど、日本語の語彙は結構多いですよね。それだけ日本語を知っているのであれば、普通はその変なアクセントをまず直そうとします。それをしないのは、むしろ不自然だと思ったのですよ」
「そうか、失敗失敗」
「でも、どうして?」
「あたし、本当のこと言うと、異星人って大っ嫌いなの。何故って? あたしが小学校に入学したての頃、両親が事故で亡くなったわ。表向きは事故だったけど、実は異星人に殺されたのよ!」
 鳳さんは、そう吐き捨てる様に言い切った。
「当然、私は異星人を憎んだわ。異星人を撲滅させる為、私は勉強した。強力な武器を造る為、強力な駆除薬を創る為。でも、段々分かってきた。私の両親は異星人殺人鬼に殺されたのであって、異星人全てが悪い訳では無いってことが……」
 鳳さんは何かを思い出す様に、ずっと空を眺めていた。でも、その眼は思い出したくない思い出の為に、悲しみが溢れそうだった。
「で、今回の仕事が舞い込んできたんだけど、趣旨はあたしの希望通り。異星人テロリストを監視し、彼らの暴力や犯罪から市民を守ること。その為に異星人の有志を募り、その力を利用する……。当然、私は協力を承諾したわ。でも、駄目なの。あたし、どうしても異星人を好きになれないの。だから、表情に決して出さない様に、仮面を付けることにしたの。ノー天気なイタリア娘の」
 そうだったのか……。
「だから、さっき言ったことも嘘。鈴木君が異星人だったら、私は鈴木君を好きになどなれない。鈴木君が悪い異星人じゃないとしても、あたしには無理なの!」
「でも、どうして私を異星人だと思うのですか? 鳳さん自身が開発した嘘発見器で、私は人間と証明されたのですよ……」
「だから、恐ろしいのよ! 鈴木君は間違いなく異星人の能力を持っている。あたしは確かにこの目で見たもの。でも、あたしの造った機械なんかじゃ検出できなかった……」
「で、何が言いたのですか?」
「あなたは……、単なる不良異星人と言うレベルじゃない。恐らく、嘘発見器でも見つからない様に訓練を受けた工作員で、何か怪しい目的で人間界に潜入している、異星人の諜報員(スパイ)に違いないわ!」
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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