灰色の疑惑(7)

文字数 1,651文字

 その数日後、火薬庫の中にいる様な不安を感じながら、僕は異星人警備隊の仕事としてテロリストのアジトの摘発に加わっていた。メンバーは川崎隊長、ストラーダ隊員と僕の三人だ。
 当然、急進派異星人がそこにはいるだろうし、抵抗する者もゼロではないだろう。だから、僕はこの人選に少なからず不安を感じていた。
 確かに、東門隊員はアジトの摘発の様な力仕事の隊務には不向きだが、小島参謀(参謀が実務に出るのも何だが)や港町隊員くらいは後方支援でいてくれても悪くはないと思う。しかし、今回の後方支援はストラーダ隊員で、彼らの参加は川崎隊長の判断で無しとなっていた。
 明らかに川崎隊長は、小島参謀と港町隊員のことを疑っている。だから、今回の作戦行動に、この二人を加えなかったのだと僕は思う。
 実際、港町隊員は「チョウが加わんのに、なんで俺が干されんだぁ?」と文句を言っていた。それについて隊長は、「人間ながら、鈴木隊員は素手の格闘が得意の様だからな」と言って彼に説明していた。しかし、本音は違うのだと僕は考えている。
 もう一人の疑惑の人物、シンディ小島作戦参謀は、別に自分が干されているなどとは全く考えていない様で、参謀室待機を当然の様に受け止めていた。

 敵のアジトは都内某所の雑居ビルの一室。何かの会社の事務所の様に見えるところだ。
 ここが会社だとしたら、特に看板も出しておらず、ドアに社名を表すプレートも無いことから、ここを怪しげな幽霊本社の架空事務所だと人は思うだろう。あるいは、反社会勢力の事務所の様な場所とか……?
 そこへと僕たちは、中の気配を伺いながら、今突入しようと考えている。なんか、刑事ドラマでも演じている様な気分だ。

 川崎隊長は時計を一瞥してから、敵アジトのチャイムを鳴らす。だが、何度鳴らしても返事がない。今度は金属製のドアを強くノックする。これも中からの反応がない。
 川崎隊長はドアノブをまわしてみる。どうやら鍵は掛かっていない様だ。川崎隊長は僕の顔を見、頷くと、意を決し中に飛びこんで行った。僕もその後に続く。
 しかし、拍子抜けと言うか、何と言うか、そこには応接セットと幾つかの事務机があるだけで、人っ子一人残ってはいなかったのだ。
 ドアから一番遠い部屋の、外部に面した窓が大きく開いているのが見える。そのカーテンが大きくたなびいて、机の書類を掃っている様だった。
「しまった、逃げられた!」
 川崎隊長はそう言って奥まで駆けて行き、窓の外へと身体を乗り出す。僕も後に続き、隊長の隣へきて窓から下を眺めた。
 下は目も眩む様に小さくなったアスファルトの道路。5階の高さしかないのに、人がアリの様な大きさに見える。
 だが、テロリストが窓の外に隠れている形跡は無かった。勿論、飛び降りて逃げたとは考えづらい。そうであれば、地上を歩く人間が、もう少し動揺した動きになっている筈だ。
 その時、僕たちが入ってきた扉がバタンと閉まる。僕は何が起こったのか直ぐには分からなかった。
「奴ら、給湯室に隠れてたんだ! 窓を開けておいて、そこから逃げたと思わせて、私たちを遣り過ごす心算だったのだ! 奴らを追うぞ、鈴木!」
 川崎隊長は、その閉まったドアから再び部屋の外に駆けだした。僕も隊長の後を追う。

 今回、僕のアプリはそのままだが、SPA-1の制御はストラーダ隊員に任せられている。万が一、後方で何かあった場合の保険だ。
 勿論、その判断は間違ったものではない。だが、彼女はSPA-1を呼び出したところまでしか操作をすることが出来なかった。
 今、異星人テロリストの一人に後ろから首を締められ、羽交い絞めにされた状態で、ナイフを突きつけられてしまっていたのだ。
「おい、動くな! お前たちもだ! 動いたら、この女の命は無いと思え!」

 テロリストの言葉に、階段を降りてきた僕たちは停止する。
 だが、SPA-1はその警告を無視し、ストラーダ隊員が人質に捕られているにも関わらず、異星人テロリストに攻撃を加えようと動き続けていた……。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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